全部、私からだった。 ~AfterStory~


 私の婚約者の『りっくん』こと谷口陸朗(タニグチ リクロウ)は、見た目はワイルドなのにすごく奥手で、出会ったばかりの頃なんか、こちらの方が焦れ焦れさせられっぱなしだった――

 ――のだけれど……



 りっくんは、視覚で捉えられないほどの素早い動きで着ていたスーツの上着を脱ぎ捨てると、迷うことなく私の上に覆いかぶさった。


「きゃあー!」

 思わず悲鳴が口から飛び出した。
 それでもりっくんは何ら動じることなく、

「気が早ぇなぁ、まだ俺何もしてねぇよ?」

 嬉しそうにそう言うと、その男らしい野性的な顔に妖艶な笑みを浮かべた。

 信じられない。
 何をどう勘違いすれば、さっきの悲鳴を喘ぎ声と聞き間違うのか。


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