全部、私からだった。 ~AfterStory~


 もう一度私を包み込んだ両腕にキュツと力を込めて、そうした後、ふわりとその腕を緩め、極自然に、違和感なく離れた。

 ニッと少年のような無邪気な笑顔を一瞬だけ見せ、りっくんはクルリと身を翻して私に背を向ける。


 男らしい大きな背中がいつも以上に愛しくて。
 寂しくて切なくて、引き留めたくなる。

 けれど、りっくんは必ずここへ帰って来てくれると言った。
 その約束一つで、心がホッコリ温かくなる。

 だからこの寂しさも切なさも、喜んで耐えようと思う。


 私の元へ必ず帰って来る。
 りっくんの居場所が、私の居場所。

 そんなのが当たり前になる日が早く来て欲しいと、心の底から思った。
 


「あ~早く結婚してぇ」

 りっくんは振り返ることなく、そんな呟きを残して出て行った。
 

 りっくんも私と同じ気持ちだった。
 たったそれだけのことが、心浮かれて舞い上がるほどに嬉しかった。


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