全部、私からだった。 ~AfterStory~
母親の方は見向きもせず、私だけを見ている。
まるで、彼女がそこに存在すらしていないかのように振る舞う姿に、また私は居心地の悪い違和感に襲われた。
部屋の左半分はグランドピアノが占領しており、その威厳ある存在感にほんの少し気後れしてしまう。
大きな窓の横、壁際に背の高い本棚、その中は楽譜で隙間無く埋まっていた。
右半分には応接セット並みの立派なソファーにテーブル。
きっと高級家具なのだろうけど、貧乏人の私には良くわからない。
「す……凄い部屋だね」
所在なく立ち尽くして、部屋中に視線を走らせながら、思わずそんな言葉が口から漏れ出た。
「赤根貿易社長の跡取り息子ですから」
言って赤根くんは、何故か自嘲気味な笑みを見せる。