理不尽な女神さま



そして次の日。

あたしは午前のバイトを終え、
エレアコとアンプ、マイクを持って街へ出た。

今日は路上ライブの日だ。

ファンの子も来てくれるはず。

あたしは東京へ来てから4年間、ずっと同じ駅前で続けている。

初めは誰ひとりとして聴いてくれなかった。

冷やかしもあったし、馬鹿にされたりもした。

でも負けないって誓った。

あたしにはおばあちゃんもいたし、ミナトもいた。

でももう――――――


そんなとき、手を叩く音が聞こえた。

あたしは回想の果て、3曲目を終えていたのだ。


「あのっ、あなたもしかしてスピカのボーカルの方ですかっ?」

「えっ、あっ・・・はい!」

「わあ・・・やっぱり!私、スピカ応援してます!」

「あっ・・・ありがとうございます・・・!」


あたしよりずっと若い高校生の女の子。

二つ結びが青春って感じ。

見たことない顔だったけど、新しいファンの子らしい。

じわじわと心が温かくなって、そのせいか目頭までぐっときた。

鼻の奥がなんとも言えないくらいツンとした。

幸せな痛みだった。


「じゃあ・・・もう1曲。」


あたしはCのコードを弾く。

これは確か、上京の直前に書いた曲だ。

ここから離れる寂しさを全て英語で綴った。

高校の時のイギリスのホームステイが活きた。


―――そして終わったころには行きかう人が見えなくなるくらい
たくさんの人が輪を作っていた。

たくさんの拍手。

たくさんの表情。

そしてあたしが感じるたくさんの幸せ。


「ありがとうございました・・・!」


そしてあたしはたくさんの笑顔を贈る。

――――それのお返しに、と。




< 10 / 16 >

この作品をシェア

pagetop