理不尽な女神さま

不条理ナ女神サマ




俺は言われるがまま、他のバンドの曲を聞いた。

でもいまいちピンとくるものはおらず、早く帰りたくなってきた。

周りもざわついている。

しかし、あの女がステージに上がった瞬間、ライブハウス全体が静まった。

そして静まったかと思えばかなりの温度差。

みな立ち上がった手を掲げ、音楽に乗っている。


「みんな。…今日も来てくれてありがとう!」


俺には見せないとびきりの笑顔を見せるあの女。

輝いている。


「じゃあ、急遽作った曲…聞いてください」



「“リアル”」


俺は目を見開いた。

体中に電光が走ったかのような感覚。

彼女の歌声が、胸に響いている。

路上とはまた違う。

彼女なりの音楽。



―――
誰かにすがりつきたくて
それでも明日は見えなくて
何かを探してまたたどり着いて
それでも君は居なくて


昨日を部屋に置き去りのまま
歩き出したせいなのか
僕たちの街は色褪せた限りだった


誰かにすがりつきたくて
それでも未来は見えなくて
何かを失ってまた傷つけて

それでも君は居なくて

――――――――


彼女の顔をじっと見つめる。


――泣いてる…?

すごく悲しそうな顔をして、彼女は歌ってる。

俺に向けた笑顔が空っぽだった気がしたのは、気のせいじゃない。

俺はそんな彼女を見て、ひどく心が痛んだ。





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