優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「三成様、困ります!朝餉は我々が…」


「まあまあ!ひとまず私が作るから食べてみてから決めて!テストテスト!」


またもや奇妙な言葉を口走った桃に三成の臣下たちは閉口しつつ釜戸を譲った。


「よしよし、キャンプだと思えばどうってことないない」


冷やしてもらっていたミンチを取り出しては早速調理にかかった桃を、三成は興味深そうに邪魔にならない位置から見ていたが…


臣下の一人が冷静沈着の三成の顔がどこか浮かれているように見えて進言をした。


「三成様…先程三成様の寝所からあの女子が出て来た気がいたしましたが…」


「ああ、もののけが怖いらしくてな。昨晩だけは共に寝てやった」


…何でもないことのように言ったが…

三成の目の下にはうっすらくまができている。


「万が一間違いが起こっては困りまする。あなた様には良い家より素晴らしき奥方を娶って頂かなくては」


「またその話か。いらぬ世話を焼くな」


いつもの調子が戻ったかに見えたが…

桃に視線を戻すとまた見たこともないような笑みが沸いている。


「三成さん、あっち行ってていいよもうできるから!あとね、お買い物したいから後で町に行きたいなー」


「承知した。何かわからないことがあれば言いなさい。では」


訝しむ臣下と共に台所から離れつつ、三成は考えを口にした。


「あの娘はこれから起こるべく出来事を知っている。それがどういうことだかわかるか?」


「?はて…」


「避けれる戦を避けることもできれば、秀吉様が天下をお取りになるための道具にもできる。逃さぬ手はない」


「さすが三成様…!感服いたしました」


――道具。


自ら桃を道具呼ばわりしたが、
あんな小さく幼い女子を戦の世に駆り出したくはない。


――この先桃が能天気でいられる保障もなく、

桃の探しているものが見つかればすぐにでもこの荒んだ時代から去ってほしい。


「秀吉様のお耳に桃の件をお入れしなければ…」


どんな反応をするだろうか?


もし戦乱に巻き込むのであれば、守ってやらなければ。


――いつの間にか三成はそのことばかり考えていた。
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