優しい手①~戦国:石田三成~【完】

独眼竜

「クロちゃんったらーっ!」


尻尾を振りながら上機嫌で全力疾走しているクロの背に跨がった桃はこの暴れ馬を御するのに精一杯だった。


――生理が終わり、ようやく外に出たと思ったらクロの暴走。


「さっき人が居たよね?」


クロも同調するように後ろを振り返るような仕種を見せたのでつられて後ろを見ると…


「待て待て待てーい!」


…馬でものすごい速さで追いかけて来る男が居た。


右眼に眼帯…

前髪はかなり長く、リップを塗ったように艶やかな唇は笑みに彩られて、そして何故か…追いかけられている。


「眼帯…?伊達政宗みたい!」


遅れてやって来た英雄、独眼竜。


信長たちと同じ時代に生まれていれば確実に天下取りに名を連ねていたであろう奥州の竜だ。


「如何にも!我が名は独眼竜伊達政宗!そなたは何者だ!」


「え!?ほんとに伊達政宗さん…なの…?」


信長も本来は死んでいるはずなのに、今度は伊達政宗…。


ますます時代が狂っている…


「おおっ、近くで見るとまたひときわ美しい太股だな!」


「えっ、え!?」


暴走を続けるクロに乗っているのがやっとな桃に政宗が手を伸ばし、手綱を絞った。


「どうどう、よしいい子だ」


クロは嫌がったがなんとか立ち止まり、桃を恐る恐る振り返る。


「クロちゃん…今日はご飯あげないからね!」


「もしやそなたが桃姫か?」


驚きながら政宗を見ると、隻眼の艶やかな男の顔には色気たっぷりの微笑が上った。


「では上杉謙信の正室になるというのも真の話か?」


クロから降りて答えずにいると、政宗もひらりと下馬すると、セーラー服の短いスカート姿の桃の太股を思う存分目で愛でた。


「えっと…」


「まあいい。あれは俺の家臣の小十郎。俺たちを石田三成邸に招いて頂きたい」


有無を言わさぬ口調でにじり寄られ、桃が後ずさりすると腰をしっかり抱かれて引き寄せられる。


「謙信より俺の方がいい男だろう?俺を選べば何度も昇天させてやるぞ」


「!?!?」


世紀の伊達男の猛烈アピールに桃はただ絶句するばかりだった。
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