優しい手①~戦国:石田三成~【完】
政宗と謙信に挟まれた桃は三成が渋面するに間違いないだろうと予想した。


変な汗が頬を伝い、政宗を盗み見る。


――若年ながら堂々たる態度の政宗の眼帯姿は大河ドラマなどで見た通りだ。


やんちゃな印象があり、無邪気に笑いながら尾張の巨大な城下町を眺めていた。


「素晴らしく栄えているが、俺ならもっと大きくできるぞ」


「政宗公は自信家だね。私はのんびり暮らせればいいや」


「日和見主義の貴公にはわかるまい。それに先に起こるべく事がわかれば無敵ぞ。のう桃姫」


「えっ、えっと…」


「愛い奴め。もう謙信には手を出されたのか?」


ひそ、と声を潜められ、桃の顔が赤くなったのを見た政宗は欠伸をしている謙信を不愉快そうに問い質した。


「上杉謙信、抜け駆けは卑怯なり!正々堂々と戦え」


「抜け駆けなんてしてないよ。その台詞、三成に言った方がいいと思うけど」


――思わぬ急先鋒の登場に政宗の馬が止まった。


「三成?石田三成が何だ?」


「姫を真っ先に見初めたのは三成だ。で、私が二番手。君が最下位」


「最下位だと?同位置から攻めていれば俺が一番だ」


「あ、あの…」


火花を散らす両者のバトルに困り果てていると屋敷に着いてしまい、予想通り渋面な三成が門の前で待ち構えていた。


「その眼帯…奥州の伊達政宗公か」


「如何にも。上杉謙信が何やら不可解な動きをしていたのでな、追って来たらこれよ」


桃は下ろしてもらいながら出会った経緯を三成の耳元で囁いた。


その間マイペースな謙信は出迎えに現れた兼続がまじまじと政宗と小十郎を見ているのを面白そうにして縁側から見ていた。


「殿…度々越後にちょっかいを出してくる奥州の馬鹿宗が居るではありませぬか!」


「馬鹿宗か、うまいね」


「…私はよくそうお呼びしますが次にまた呼ぶと…刀の錆に致しますぞ」


静かな小十郎の殺気に兼続が声を上げて笑った。


「いやはや、奥州の伊達殿もうかつに越後へと攻め込まれませぬよう。民が激減する故国が滅びますぞ」


――牽制しあう越後と奥州の両雄に、三成と桃は蚊帳の外でため息をついた。
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