優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信はそもそも独眼竜の突然の登場にも全く動じていなかった。
床に置いた琵琶の弦を指で時折弾き、三成は目まぐるしく策を練っては有利な立場に立とうと口を開くと…
「動いちゃやっ!むにゃ」
膝に抱き着かれて集中する視線に咳ばらいをすると、不機嫌な政宗の盃に徳利を傾けた。
「貴公は謙信公を追って来ただけで…尾張に何かしようと腹に一物あるのではあるまいな?」
「ふん、織田信長の傀儡に等しき豊臣秀吉には興味はない」
暴言を吐き、謙信がひそりと笑いながら酒を口に運んでいるのを見兼ねた血気盛んな政宗は片膝を立てて立ち上がった。
「何がおかしい?まずは貴公の越後が奥州の属国となるのだぞ」
「傀儡って言ってるけど…生きながらえた信長を守り、明智を討って得た地位。それに彼の戦上手は筋金入りだよ。三成の策も毎回大当たりだし。こちらにもちゃんと情報は入ってきてるんだよ」
「殿、拙者が反論して頂きたいのは秀吉公のことではなく越後が属国云々ですが?」
桃が膝枕同然で寝ているため大きな声を出せないでいる三成は閉口していた。
――信長は本能寺に逗留中、重臣だった明智光秀から謀られ、命を落とすところだった。
事前に明智光秀の不穏な動きを読んでいた秀吉が危機一髪で信長を救い出したはいいものの…
「甲斐の信玄に続き、信長も長くはない。本能寺で受けた矢傷と刀傷…傷口が倦んで違う病を呼び寄せたそうだな」
確かな情報を明かされて、三成は否定も肯定もせずに膝で眠る桃を静かに見下ろした。
「今は信長公がこの国の統治者。形式上ではあるが我らは天下取りは一時休戦をし、血判を交わした間柄。侵せば、許さぬ」
「信長に怯えて攻め込む勇気のない奴らが多いだけのこと。だが信長が死ねば秀吉公が跡を継ぐ。その時こそ我が奥州が名乗りを上げる時だ」
熱弁を奮う政宗を頼もしげに小十郎が見つめ、兼続は聞いているふりをしながらも謙信の腕を取って無理矢理立たせた。
「では越後が通り道になるな。三成、心配するなよ、越後にて野心満々の竜は叩き落とす故な」
「ふん、せいぜい吠えるがいい」
酒を呷りながらまた桃を酒の肴にする政宗は、大物だった。
床に置いた琵琶の弦を指で時折弾き、三成は目まぐるしく策を練っては有利な立場に立とうと口を開くと…
「動いちゃやっ!むにゃ」
膝に抱き着かれて集中する視線に咳ばらいをすると、不機嫌な政宗の盃に徳利を傾けた。
「貴公は謙信公を追って来ただけで…尾張に何かしようと腹に一物あるのではあるまいな?」
「ふん、織田信長の傀儡に等しき豊臣秀吉には興味はない」
暴言を吐き、謙信がひそりと笑いながら酒を口に運んでいるのを見兼ねた血気盛んな政宗は片膝を立てて立ち上がった。
「何がおかしい?まずは貴公の越後が奥州の属国となるのだぞ」
「傀儡って言ってるけど…生きながらえた信長を守り、明智を討って得た地位。それに彼の戦上手は筋金入りだよ。三成の策も毎回大当たりだし。こちらにもちゃんと情報は入ってきてるんだよ」
「殿、拙者が反論して頂きたいのは秀吉公のことではなく越後が属国云々ですが?」
桃が膝枕同然で寝ているため大きな声を出せないでいる三成は閉口していた。
――信長は本能寺に逗留中、重臣だった明智光秀から謀られ、命を落とすところだった。
事前に明智光秀の不穏な動きを読んでいた秀吉が危機一髪で信長を救い出したはいいものの…
「甲斐の信玄に続き、信長も長くはない。本能寺で受けた矢傷と刀傷…傷口が倦んで違う病を呼び寄せたそうだな」
確かな情報を明かされて、三成は否定も肯定もせずに膝で眠る桃を静かに見下ろした。
「今は信長公がこの国の統治者。形式上ではあるが我らは天下取りは一時休戦をし、血判を交わした間柄。侵せば、許さぬ」
「信長に怯えて攻め込む勇気のない奴らが多いだけのこと。だが信長が死ねば秀吉公が跡を継ぐ。その時こそ我が奥州が名乗りを上げる時だ」
熱弁を奮う政宗を頼もしげに小十郎が見つめ、兼続は聞いているふりをしながらも謙信の腕を取って無理矢理立たせた。
「では越後が通り道になるな。三成、心配するなよ、越後にて野心満々の竜は叩き落とす故な」
「ふん、せいぜい吠えるがいい」
酒を呷りながらまた桃を酒の肴にする政宗は、大物だった。