優しい手①~戦国:石田三成~【完】
家臣たちは席を外して部屋には三成と政宗、そして桃だけになった。


「…」


「……」


本来三成は話し上手ではなく、口を開けば毒舌。

その内容の凄まじさたるや、政宗も聞いたことがある。


迂闊に暴言を吐いてしまうと倍以上の威力でもって返ってきそうで、また小十郎を中心にした重臣が幼き上り竜を庇護していたのだ。


信長、そして秀吉という戦で覇を極める最前線で戦う英傑と共に知略謀略を駆使して戦ってきた三成の前では赤子に等しいだろう。


あの謙信にも赤子扱いをされたがあと数年も経てば肩を並べることができるようになる。


…その近道をこの女子…桃姫が導いてくれるはずだ。


「三成よ、何を貢げば桃姫を譲ってくれる?おぬしは待っていれば勝手に天下が転がり込んでくる位置に居るのだ、だから姫は俺に譲れ」


君主らしく傍若無人な態度に、三成がうっすらと笑った。


女子の間でも三成の美貌は知れ渡っており、噂ではあの浅井家から秀吉に嫁いだ茶々すら三成に懸想しているというほどの美貌の持ち主。


――冷徹な月が冴え渡るような笑みに威嚇する気持ちが萎んだ。


「貴公が桃を夢中にさせることができるとは思えん。それに俺は金品では動かぬ。政宗公、息巻くだけでなく誠意で接してはいかがか」


「んむー、三成さん…?」


若干酔い気味の桃が赤い顔でむくりと起き上がった。


瞳は潤んで長い付け髪がさらさらと床に零れ落ち、三成を見上げるなりふわっと笑ったので、


何事にも力わざで女子の心を奪ってきた政宗の胸はざわざわと妙な音を立てた。


「桃、風呂に入ってもう寝ろ。顔が赤いぞ」


「あれ、私…寝ちゃってたの?あ、謙信さん居ない…。ふわわわあ、お言葉に甘えて…」


座っていた桃の着物の裾が乱れてちらりと太股が見えてしまっていた。


完全に桃の太股の虜となっている政宗は身を乗り出してガン見を開始したので三成が桃の手を取って立たせる。


「貴公も早く休まれるがよい。覗きなどもちろんせぬように」


「はははっ、覗きなど卑怯なことはせぬ。俺なら堂々と乗り込んでゆく」


――面倒な奴が増えて三成はまたため息をついた。
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