優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃は、政宗から羽交い締めにされながら思うままに声を上げさせられ、なんとか抵抗を試みていた。


「…っ、や、政宗さ、やめて…っ」


「まずは俺を味わってみろ。さすれば自ずと気付く。俺の正室に入りたい、とな」


耳ばかりを攻められて、足腰が立たずに生まれたての小鹿のように四つん這いで身体を震わせる。


思い通りにならない桃がもがく度に浴衣がはだけ、白い太股や胸が見えて、

桃の息もさることながら、政宗の息も興奮のあまり乱れてきた。


「三成さ、三成さん…っ」


「三成?あんな堅物のどこが良いのだ?俺なら姫をもっと気持ち良くさせてやれる」


「独眼竜…いけないことをしているね」


――突如縁側の入り口から気配もなく静かにかかった声に政宗は傍らに置いていた刀を掴み、身構えながら振り向く。


そこには声と同じく静かに笑っているが、どこか鬼気迫る静けさを湛えた上杉謙信がこちらも刀を手にして立っていた。


「濡れ場によくも堂々と乗り込んできたものだな。貴公に俺を止める理由はあるのか?」


「さあ…私は不義理なことが許せないだけだよ。…姫」


政宗が離れたと同時に胸元をかき抱いて壁まで後ずさり、身体を震わせていた桃に謙信が歩み寄ると白い羽織を身体に包ませて安心させるように笑った。


「怖い思いをしたね」


「謙信さ…」


羽織から香る謙信の優しい香りに安心したのか、膝を抱えて俯いた桃から顔を上げた謙信の顔を見て政宗の胆は冷え切った。


「姫の同意なく事を成就させようなんて、私は許さないよ」


「…許さないから何だと言うのだ?戦でも仕掛けてくるつもりか?」


冗談半分で言ったつもりが、普段のんびり屋の謙信の顔は…


戦場で見せる凛々しさに満ちた武将のものだった。


「そうだね、姫を泣かせたことは私を奥州に攻め込ませるに十分だ。…覚悟があるんだね?」


――軍神上杉謙信…

攻め込むことはないが一度目覚めてしまえば奥州などひとたまりもない。


「…今宵は退散する」


「別に退散してもらって構わないけど、姫には謝ってもらうよ」


有無を言わさぬ押しの強さに、政宗は唇を噛み締めた。

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