優しい手①~戦国:石田三成~【完】
まだ寝床についていなかった三成の元に寝たはずの桃が怖ず怖ずと入ってきた。


「桃?寝たのでは…」


「うん、ちょっと目が冴えちゃって…」


元気のない桃に気付いた三成は筆を置いて目の前に座った桃と向き合う。


「…政宗から何かされたのか?」


「……」


嘘のつけない桃が俯き、頑なに真相を語ろうとしないので、とりあえず落ち着かせてやろうと膝の上で握り込んだ小さな拳に手を被せた。


「…あったかい」


「よく冷血で血の通っていない男だと言われるが、そうではないだろう?」


珍しく冗談を言ったのでようやくほっと息をついた。


「三成さん…寝ようよ」


――夜伽という意味ではなく、やはり自分の与り知らぬところで何かが起きたようなのだが、そこまで口を挟む権利が自分にあるのか問い質し、結果三成は桃の手を握ったまま立ち上がり、寝所へと向かった。


「三成さん…聞きたい?」


ふいに聞いてほしいような素振りで問われたが、そのまま黙って寝所に入ると入り口で首を振り、桃の手を離した。


「なんで手…離すの?」


「俺は謙信や政宗より優位な立場に居るつもりはない。そなたのやること為すことにも口出しはできぬ。…俺に何を求めている?」


愚直で言葉を飾らない三成の真摯なる瞳は、公平なる心を持ち、素気なくされた桃はそれでも熱く見つめてくる三成の手を取った。


「三成さんは私が謙信さんや政宗さんにぐらぐらしても平気なの?」


「…平気なものか」


いきなり姫抱っこをされてそのまま布団の上に押し倒された。


重たく覆い被さる三成の心臓の速い鼓動が聞こえて、

さっきまで謙信にドキドキしていたのに、今度は三成に心臓が破れそうな位にときめかせられて、


ふらふらする自分が恥ずかしくて涙声になりながら顔を手で隠す。


「私…変なの。三成さんや謙信さんの間を行ったり来たりして…ずるいよね…」


「…あの謙信と比べられるのならば本望だ。俺は待つ。策を講じてそなたを陥れてみせる」


――強く強く重なった唇に、桃は応えた。


とろけるようなキスに身を委ねて、抱きしめられて安心しきり、眠った。


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