優しい手①~戦国:石田三成~【完】
しんがりは幸村が務めていた。

本領を発揮しだしてきた謙信に不安を感じつつも、

三成と謙信…そして割って入ってきた政宗の間で、桃の気持ちが揺らいでいるのを感じていた。


――そこに、自分の影はない。


「…俺も…姫を心から好いているのに…」


“拙者”をかなぐりすててとうとう“俺”と呼称し、高ぶる思いを見せた幸村は、前を行く三成と桃の馬に並ぶ。


「清涼を楽しむとは殿は真に優美なお方。姫、越後もたいへん涼しく美しい地で」


「ありがとう幸村さん」


朗らかに笑いかけてくれた桃に赤くなりつつも笑い返すと三成が桃の腰を強く抱いた。


「落ちるぞ、桃」


「え、わっ!」


突然クロの腹を蹴り、スピードを上げたので桃が慌てて手綱を握る三成の手の上に手を重ねる。


「幸村、しかと付いて来いよ」


「はっ!」


歯切れのよい返事を返しつつも内心悔しさでいっぱいになる。


戦でならば、負けないのに――


…所詮戦馬鹿が考えるのは、その程度のことだった。


――謙信が待つ山の麓に着くと緑を眺めている謙信を少し距離を置いて観察していた政宗が鼻を鳴らして見上げて来た。


「尾張も意外と美しい場所だな。まあ奥州の方が美しいが…。姫、早く俺に心を許せ。奥州へと共に帰り、式を挙げようぞ」


「え、えーと…」


「ほら、水の音がするだろう?泉はすぐそこだよ」


熱烈なる政宗のアピールを無視した謙信が手綱を引いて歩き出し、

その態度に怒りながらついて行く二人の後ろを歩きながら桃は少しだけドキドキしていた。


「ま、政宗さんって熱烈だよね…」


「17ともなれば立派な女子だ。瑞々しい時期でもある」


少し官能的で甘いその響きに桃は唇をとがらせる。


「育ってない部分もまだあるけどね!」


「む?い、いや…、だからそれは俺の手で…」


「な、なに言ってるの!?いいもん、自分で揉んで大きくするもんっ!」


…そんな変な押し問答をさらに後ろを行く幸村が聞きつつ口元を押さえながら真っ赤になる。


「も…揉んで…???」


戦馬鹿には刺激的すぎる会話の内容だった。

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