優しい手①~戦国:石田三成~【完】
防具を次々と外してゆく謙信を3人はそれぞれ複雑な思いで見守る。


肝心の桃はもう遠くまで泳いで行ってしまい、こちらの様子に気付く様子もない。

謙信は上半身服を脱ぎ捨てると均整の取れた身体を晒し、三成に笑いかけた。


「私が姫と泳ぐのは抜け駆けになるのかな?」


「…いや」


「一応聞いておかないとね。君たちも後で姫と泳いだらどうかな?あんな姫を見たら…我慢できないだろう?」


くすくすと笑いながら泉に飛び込み、小さな波紋を作るとすいすいと桃に近付く。


「…貴公も行かれるのか?」


岩石が泉に沈んで少しだけ覗く場所が多く、不安になりながらも竹筒から水を飲んでいた政宗に話しかけた。

するとこの若き隻眼の男は首を振り、苦笑を浮かべた。


「俺はいい。姫を泣かせたばかりだからな。…三成よ、うかうかとしている場合ではないぞ。あの男、火が燈ったようだ。あっという間に姫を我が物としてしまうぞ」


「…」


物腰がやわらかい故に緊張感を味わう機会はあまりなかったが…


三成は気を引き締めて桃たちが消えた辺りの場所を注視した。


――その頃桃は背泳ぎのように水に浮かび、陽が降り注ぐ空を大の字になって見ていた。


「はあ…気持ちい…」


「姫」


「えっ?」


慌てて身体を起こすと、泉から突き出た岩に謙信が腰掛けていた。


「ど、どうしたの?謙信さんも泳ぎたくなったの?」


相変わらず免疫のない桃が引き締まった身体から視線を逸らすと、白皙の美貌に目元を緩ませてふっと笑う。


「間近で見たくなってね。可愛いよ」


面と向かって“可愛い”と言われ、顔に火がついたように熱くなって背中を向けながら早口でまくし立てた。


「で、でもっ、胸とかちっちゃいし…」


「ううん、すごく可愛いよ。ねえ姫…触っていい?」


「え…?きゃ…っ」


――背後から抱きすくめられて、声を低くしながら耳にキスをしてきた。


「その姿…私を興奮させるよ。姫、もっと…触っていい?」


「え…、や、だ、め…っ!」


腰を、肩を優しく指が撫でてゆく。


謙信の手も、熱かった。

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