優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信の手が桃の身体を撫でる。


首筋には謙信のやわらかい唇が這い、桃は声を押し殺すのに必死になっていた。


「ん…!」


「どうしたの、顔が真っ赤だよ」


「だ、だって、謙信さんが…っ」


「私?私が何かしてるの?何を?」


――止めようにも身体はぴったりと密着していて、謙信の手が水着の中に入ってきそうな動きを見せるので、それを抑えるのに必死になっていた。


ばしゃ、と水が跳ね、

水の音で三成に気付かれまいと力が萎えた身体で岩にしがみつくと、今度は背中にキスの雨が降ってくる。


「も…、謙信さ、やめ、て…っ!」


「昂ってしまったんだ。ここで姫を抱くことはできなくても、今宵は私に近付くんじゃないよ、姫…」


前を向かされて真向かいで対峙すると、手を握られて謙信の心臓の上に導かれた。


「ほら…平静に見えるかもしれないけど、すごい音でしょ?姫のその胸を隠してるやつ…取りたいなあ。取っていい?」


息も絶え絶えになりながら見上げると、隙だらけの桃の唇に謙信は今まで誰にもしたことのないような激しいキスをした。


唇と唇が音を立てて何度も重なり、 とうとう謙信の右手が水着の中に潜り込む。


「やっ、やめて…っ」


「まだ三成が好き?三成より姫にしてやれること、私の方が沢山あるよ。桃姫…可愛いよ」


――万事休す。


普段ののんびり屋な謙信からは想像できない激しい攻勢に、もう駄目だと思った時…


ガキーィンッ!


岩に何かがぶつかり、それが桃の傍らに落ちた。


…三成の刀だ。


何とか謙信の腕から逃れて三成たちの居る方を見遣ると、 今まさに振りかぶったという体の三成が立っていた。


ようやく我に返り、水に沈みかけた刀を拾い上げて目の前で水平に構えると、おどけたように謙信が両手を上げた。


「ごめんね、姫があんまり可愛いから」


「私…三成さんを…」


「だからまだ決めないで欲しいな。私の良さはまだひとつも姫に見せれてないからね」


――笑い、すいすいと三成たちの方へ泳いで行く謙信を見送る。


…恐るべき男だった。
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