優しい手①~戦国:石田三成~【完】
泉から上がってきた謙信が濡れた髪をかき上げて水を払う様をただ見つめていた三成に対し、 政宗は果敢にも手ぬぐいを投げつけながら問うた。


「姫に悪さをしたのではないだろうな?」


「いたずらはしたけど。姫も悪い気はしてなかったようだったよ」


――泉には入らない、と宣誓してしまった政宗は悔しげに息を吐きながら、何やら掌を見つめて余韻に耽っている幸村を指差す。


「よくわからぬが、あ奴も良い思いをしたみたいだな」


純真な幸村が顔を赤らめたのでまたいらっとしつつ口を開いた時――


「ブヒヒィーンッ!」


「!?」


桃が視界から消えてしまい、こちらも苛立っていたクロがとうとう暴れ出した。


馬体は他の馬とは比較にならない大きさなため、あっという間に繋いでいた木が根っこから倒れた。


そのまま引きずって走り出したので、三成が刀を抜いて手綱を切る。


「姫は獣までも虜にするのか。…あ、ここにも獣が三匹」


「…貴公が数に入っておらぬようだが?」


三成が突っ込むと、山林を回り込んで桃に一番近い場所から飛び込み、泳いで近付くクロを全員で見守る。


しばらくするときゃっきゃとはしゃぐ声が聞こえて目を細めていると…


「わ、クロちゃん!?きゃあーっ!」


…いくら桃に懐いているとはいえ、元は暴れ馬。
興奮しすぎて攻撃を加えたのでは、と青ざめた三成が泉に飛び込む。


「姫には君の刀があるはずだけど」


「桃は扱い方を知らぬ!」


“じゃあなんで投げたの”という謙信の心の声が聞こえたが構わずに泳ぎ続け、ようやく到達すると…


クロが鼻面で桃の身体を突いていて、桃はそれがこそばゆいのか声を上げて笑っていた。


「も、クロちゃ、くすぐったいよ!」


「…桃」


呆れ返り、肩で息をつくと、三成の存在に気付いた桃が振り返り、手を振った。


「あっ、三成さんだ!クロちゃんが入ってきちゃ……」


「…!!」


手を振った姿勢のまま桃が凍りつく。


三成も桃の前で凍りついた。


興奮したクロが桃の水着を引っ張り、 桃は三成の前で『ポロリ』をしてしまっていた。
< 134 / 671 >

この作品をシェア

pagetop