優しい手①~戦国:石田三成~【完】
水着を口にくわえて振り回すクロの姿が目に入った。


「きゃ、きゃあーっ!!!」


「す、すまぬ!」


慌てて背を向けた三成の顔は、赤を通り越して奇怪な色に変化し、口元を覆ってつい…反芻してしまう。


――けして小さくはなく、隅々までばっちり見てしまった己に自噴しつつまくし立てる。


「安心しろ、よ、よくは見てない!」


「嘘つき!絶対見てた!目線が胸だったもん!」


…見破られて、クロがくわえている桃の水着を引っ張り、奪い取りながら小さな小さな声で謝る。


「…すまぬ…」


「…やっぱり見たんだ?」


「み、み……み………」


「み?」


「…………………見た」


背を向けたまま桃に近付き、後ろ手で水着を返した。


「もおやだっ!三成さんに見られたの、二回目!」


「い、一度目は不可抗力だった!そなたとて俺の…」


「きゃーきゃーきゃー!思い出しちゃうからやめてっ!」


水着を受け取り、これ以上ないというほどに顔を真っ赤にしながらもなんとか水着を付け直そうと奮闘したが、


焦りが昂じてホックが嵌まらず、最終手段に出るしかなく、三成の背中を指先で突いた。


「これ…嵌めてくれる?」


「なに?!」


――振り返ると手で胸を隠した桃が背を向けて片手でホックを指した。


「その金具に嵌めてくれる?簡単だからお願い!」


真っ白な背中が露わになり、羞恥に身体を震わせる桃に猛烈に感情が昂ぶる。


振り切れそうになる理性をなんとか引き戻し、咳ばらいをしてホックに触れた。


しかしどうしても指が肌に触れてしまい、その度に揺れる桃がいじらしく…


そのままの勢いで三成は桃を背中から抱きしめた。


「み、三成さんったら!早く…っ」


「…そのまま振り向いてもらえぬか?」


「え…、あ…っ」


身体を反転させられて手を三成の背中に導かれ、 素肌の身体が三成に密着した。


「だ、駄目!謙信さんたちが来たら…」


「別に関係ない」


――眩暈がする。

二人とも、同じ気持ちになる。


誰にも邪魔されたくない、と。
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