優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成の喉が鳴る音がした。


きつく回された腕は細いが筋張っていて男らしく、こんなにも年下の自分を、戦国時代に生きた英傑が愛しく思ってくれていることに泣けてきた。


けれど好きになってはいけない人―――


「…へへっ」


「…何を笑っている?」


緊張を孕んだ低い声が鼓膜を震わせ、桃は素直に思いを口にした。


「だって…もし…もし私がこの時代で生きてたとしても、三成さんとは出会えなかっただろうし、大事に思ってくれなかったと思う」


腰に回された手に力が僅かにこもった。


顔を上げるといつになく真摯な瞳で、冷徹に見えるクールな美貌に、やわらかい笑みを見せた。


「何処に居たとしても桃を必ず見つけ出していた。生涯そなたと添い遂げるのは、俺だ」


――天真爛漫で男勝りな自分がどこかに引っ込んでしまい、顔を上げたまま近付いてくる唇を待っていると…


「桃姫ーっ、大事ございませぬかー!?」


――空気の読めない男の声がした。


唇を通り越して、がくっとうなだれた三成か桃の肩に顔を埋める。


「ゆ、幸村さんの声だよねっ、戻らなきゃ…」


しばらく動かないので、よっぽどショックだったのかな、と少し笑みを誘われていると、


「…意外と胸はあると思うぞ」


「えっ!?やだっ、どこ見てたの!?やだやだ離れてーっ!」


胸を手で庇い、首まで水に浸かると、じっくり桃の胸を観察して眼福の思いを味わった三成が服を脱いで桃に着せ、前も留めてくれた。


――今度は桃が三成の引き締まった鋭利で細い身体に見入る番で、口をぽかんと開けて見つめる桃に意地悪げな笑みで腰に手をあて、顔を覗き込んだ。


「どこを見ている?」


「え…、ど、どこも見てないもんっ」


「俺の身体に陶酔していただろう?もっと見たいなら、今宵見せてやるが?」


「馬鹿!スケベ!」


散々悪態をつきながら水をかけれど一向ににやにや笑いが収まらない三成に唇を尖らせていると…


「姫ーっ!?かくなる上は拙者がお助けいたします、しばしお待ちを!」


「あいつ…今夜の夕餉は抜きにしてやる」


三成も悪態をついた。
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