優しい手①~戦国:石田三成~【完】
俺様なくせに、強引に引き付けておいて実はこちらを慮りながら接してくれている政宗は次々と意外な素直を見せる。


――キスされながら三成や謙信などの顔が次々と思い浮かぶが、圧倒的にこういった種類の経験のない桃にとっては抵抗できるわけもなく、

木の幹に押し付けられて腕を取られ、セーラー服が地面に落ちた。


「姫よ、三成はたかが重臣。あ奴の性格が災いして命を落とす可能性は高い。さらに謙信は一国の城主。あれは正室を取らず“生涯不犯”を誓った男。本気で姫を娶ろうとしているのかもわからぬ。だが俺なら確実にそなたを正室にできる」


政宗の隻眼を震える瞳で見つめた。


…ここに残るわけにはいかない。

両親を見つけてオーパーツを回収して、一緒に元の時代へと帰ることこそが自然なこと。


「…駄目なの。あのね、政宗さんにも優しい奥さんができるし、お母さんとも…仲良くしてね」


「…俺の母?鬼姫のことか。そなたの時代でも名を遺したか」


――セーラー服を拾ってくれて背を向けた政宗が肩で息をしたのがわかった。


…どうやらこの男の触れてはいけない部分に触れてしまったのだと知り、桃は小さな声で謝った。


「ごめんなさい…。お母さんはずっとお母さんなんだし、たった一人のお母さんだよ。…弟さんは…どうなってるの?」


――家督争いの末の悲惨な結末。

政宗が家督を継いでいるのならば、弟は…


「…もう戻ろう。あまり遅いとまたあの空気の読めん男が来るからな」


いつもは豪快な政宗が少し殊勝な姿を見せて、桃の胸は小さな音を立てた。


急いで着替えて後を追い、三成たちと合流すると政宗はすでに謙信からいじられたおされてた。


「姫に悪さをしたんじゃないだろうねえ?」


「一緒にするな。今後“生涯不犯”などとうそぶくと斬りつけてやるからな」


黙り込んでしまった桃の前に三成が立ち、その足元を桃は見つめたままリュックを差し出した。


「…持って」


「…どうした?謙信ではないが政宗から何か…」


「ううん。忘れそうになってたこと、政宗さんが思い出させてくれたの。馬鹿だなあ、私って。ほんと、馬鹿」


ここに居てはいけない。
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