優しい手①~戦国:石田三成~【完】
“考えても答えの出ないことは考えない”


――それをモットーにしている桃は、三成が先ほどから心配げに見つめていることに気付き、明るい声を上げた。


「今日は久々に夕ご飯作っちゃうよ!幸村さん、お買いもの付き合ってね!」


「御意!」


クロに三成と二人乗りし、空元気の桃は馬を寄せてきた謙信を見た。


拭い切れない不安が表情に出ていた自覚はあったのだが…謙信はそれには触れず、柔和な笑みを浮かべてひそ、と言葉を投げかけてきた。


「三成に何をされたのか気になるなあ。私よりすごいこと?」


「え!」


「なに」


――謙信との出来事を知らない三成の声に怒気が孕んだので、桃は慌てまくりながらクロの腹を軽く蹴って走らせた。


「もお!謙信さんったら!」


「桃…何があったのか俺には言えぬのか?」


意外と子供じみたところのある三成がやや拗ねながら腰を抱いてきて、桃はまた明るい声で話を逸らす。


「三成さんは何が食べたい?またハンバーグ作ったげよっか?」


「言えぬのだな?では今宵身体に聞いてやる」


――こちらもまた侮れない発言をしてきて、みぞおちに思いきり肘鉄を食らわす。


「うっ」


「ま、政宗さんは何食べたい?」


「そうだな…俺は姫でいいぞ」


にやりと笑った政宗はもう先ほどの政宗ではなく、いつもの感じに戻ってくれたのが嬉しくて微笑みかけると、微笑み返してくれた。


「ちなみに俺は料理が得意だから手伝ってやってもいいぞ。馳走とは旬の品をさり気なく出し、主人自ら調理して、もてなす事だ。貴公たちが奥州へ来たときは俺自らもてなそうぞ」


「君は本当に伊達男だね。私も料理を習ってみようかなあ」


何故か始終政宗をからかっては遊んでいる謙信がまた茶々を出して二人が言い合いを始め、先ほどの不安が吹っ切れて三成に笑いかけた。


「さっきは変なこと言ってごめんね。そろそろ越後に行けそう?」


「来週には発てる。その前に一度大坂城にて秀吉様と茶々殿にご挨拶するように」


「うん!二人とも優しくしてくれたもんね」


どこか過去形のその言葉に、三成も謙信も政宗も幸村も黙ってしまった。
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