優しい手①~戦国:石田三成~【完】
屋敷に着き、桃は早速幸村と二人で買い物に繰り出した。


舌の肥えた連中をうならせるものを作る自信はなかったが素朴でおふくろの味と言わしめるものを作ろうと思い、商店を練り歩く。


「おっ、桃ちゃん久しぶりだね!これ持ってきな!」


「わっ、ありがとう!」


買おうと思っていたじゃがいもと玉ねぎがタダで手に入り…


「桃、三成様に精のつくもん作ってやんな!」


牛肉もこれまたタダで手に入り、大喜びする桃の笑顔がお代だといわんばかりにつられ笑顔になる商店街の人々に、幸村も頬を緩める。


「拙者だけの姫が皆の姫になってしまいそうで、うかうかしていられません」


「このお肉高そう…タダでいいのかな……え?幸村さん、何か言った?」


ごにょった挙句、世紀の告白を聞いてもらえていなかった幸村はがっくり肩を落としながら首を振った。


「何でも。!姫っ!」


「え?」


――角から飛び出してきた馬に引き倒れそうになり、幸村が身を挺して桃を庇い、腕に抱きながら身体を家屋に叩き付けた。


「幸村さん?だ、大丈夫!?」


――それよりも、桃をこうして腕に抱けたこと。それが何よりの幸せ。


「どこか痛い?すぐお屋敷に帰ろうよ手当しなきゃ!」


…さらに桃から手当、と聞いた幸村は、さほど身体は痛めていなかったのだが、わざと顔をしかめて身を起こした。


「少々腕をやられました…。かたじけない」


「ううん、庇ってくれてありがとう。もうお買いもの済んだから帰ろ?」


大きな黒瞳が心配の光で潤み、桃の視線を独占できている喜びにひたりつつ…


一度だけぎゅっと桃を抱きしめた。


「ゆ、幸村さん?」


「…もし一生残る傷でもついてしまったら…拙者が責任を取らせて頂きます!」


「大げさだなあ。でもありがと!」


――またもや大告白をド天然な桃が意味を考えずに流してしまい、肩を落としそうになったのだが…


頬に唇を押し当てられて、一瞬にして幸村の顔が真っ赤になる。


「お礼!早く帰って手当しよ?」


「は、はっ!」


声を裏返らせてしまい、それでも幸せいっぱいで桃と二人で家路についた。
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