優しい手①~戦国:石田三成~【完】
急いで客間に戻ると、そこには三成たちが輪になって、畳に置いたネックレスに見入っていた。


「姫、さっきから姫を呼ぶ声がこれから聞こえるんだ。さあ、こっちへおいで」


「う、うん…!」


心臓が早鐘を打つ。


…忘れていたつもりはなかったが、実のことを言うと、あまり姉たちのことを考えたことはなかった。


いや、そんな余裕がなかった、と言った方がいいかもしれない。


「桃…」


三成が名を呼び、ネックレスの前に座った桃を心配そうに見つめる。


内心複雑な心境すぎて言葉をかけることができず、こわばった表情の桃はネックレスに顔を寄せた。


「お姉ちゃん?お姉ちゃんたちなの?」


『…桃!?桃なの…!?』



――返ってきたその声――


長女で、桃を猫かわいがりしてきた桜(サクラ)の声だった。


桜は茶々に少し似ていて、茶々と話す度に桃は桜と居るようで嬉しかった。


「桜お姉ちゃん!桃だよ、お姉ちゃん、どうして声が聞こえるの!?何か話して!」


必死に呼びかける桃を、それぞれがそれぞれの想いを抱えて複雑になった。


喜んでやりたいのだが、喜んでやれない。


皆が桃にはこの時代に残ってほしい、と思っているのだから――


『蜜柑(ミカン)や小梅(コウメ)や苺(イチゴ)の石の欠片を重ねてみたの。桃の分だけ足りないけど、でもそれで桃の声が聞こえたわ。どの時代に居るの?怖い目に遭あってない!?』


「あのね、今ね、戦国時代に居るの。あのね桜お姉ちゃん、私、石田三成さんにお世話になっててね、それでね…」


『桃…桃?声が遠くなってきたわ…!石田三成って言った?桃、駄目よ、歴史を動かす重要な人物と深く関わっちゃ駄目だからね、こっちに戻れなくなるわよ!』


――声は高いがやわらかい話し方をする桜という名の桃の姉の言葉に、皆が顔を見合わせた。


…戻れなくなる?


「桜お姉ちゃん、こっちにお父さんとお母さんが居るみたいなの!私、絶対一緒に連れて帰るから!絶対……桜お姉ちゃん!?」


突然途絶えた。


部屋の中の声も、途絶えた。


“絶対に帰るから”


誰の胸にも重たく、響いた。
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