優しい手①~戦国:石田三成~【完】
顔を手で覆って隠す桃から身体を起こし、さすがの謙信も参ったと言わんばかりに髪をかき上げる。


「もし私が強引に姫を抱こうとしてたらどうなってたと思う?」


「……わかんない…」


「それはつまり私を強く拒否できないということだよね?」


「……多分……」


強く惹かれているが、いつもすんでのところで…三成の顔が浮かんで…桃は正気に戻る。


そんな桃の心情は謙信には簡単に推し量ることができていた。、


毘沙門天の啓示は元より、この可憐な女子を心底から愛でて傍に置きたい、と思い始めていたのだが、敢えてそんな想いは綺麗に隠して、桃の背中に手を入れて抱き起した。


「ごめん。私も浅いね、けれどこうして男の部屋に何も考えず入ってくる姫にも非はあるんだよ」


「…うん」


――我慢をさせている、と感じる。


女の子として生まれて、男の人にこうして求められて…嬉しくないはずがない。


だけど、今目の前で小さなため息をついている上杉謙信…歴史上の人物だ。


もし謙信を受け入れてしまったら…


歴史を正しに来たのに、歴史を狂わせてしまうのは、自分かもしれない――


「さ、お戻り」


やんわりと声をかけられて、ゆっくりと立ち上がると…


「謙信公、こちらに桃が来てはいまいか?」


――三成だ。


思わず駆け寄って自ら襖を開けると…

三成はその冷静で落ち着いた顔に驚きの色を乗せ、眉を潜めた。


「…桃?」


「な、何でもないの!謙信さん、じゃあまたね!」


「おやすみ」


振り返らず背を向けたままの謙信に、桃の気持ちが萎み、襖を閉める瞬間までその背中を見つめた。


…怒らせてしまったに違いない。


あんな優しい人を怒らせてしまって、どうやって謝れば許してもらえるというのだろうか?


「桃、謙信と何かあったのか?」


「…うん…多分、怒らせちゃったの…」


…それ以上は聞いてこない。


ただ、ぎゅっと手を握ってくれた。


優しい手――

この手を選んでしまいたいのに。

どうして私はこの時代に生まれてこなかったのだろう?
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