優しい手①~戦国:石田三成~【完】
そのまま寝室まで行って、真っ暗な部屋に明かりが灯された。


「泳いだから疲れただろう。今宵はもう寝なさい」


「…三成さんも…怒っちゃった?」


――言われている意味がよくわからず、三成は布団の上で膝を抱えて座り込んだ桃の隣に座った。


「何のことだ?」


「私…お姉ちゃんに“絶対帰るから”って言ったから…。謙信さんのことも怒らせちゃったし…」


――正直かなり悲しい気持ちになったのは否めない。

やはり住んでいる時代が違う人間。

不便なことも多ければ、こんな戦乱の世にいきなり来てしまったこともどれだけ心細かったことだろうか――



「…俺はそなたを…愛している」


「…え?」



――聞き逃すはずがない距離で、桃が顔をぱっと上げて大きな瞳をさらに見開いた。


口から突いて出た言葉――


もう取り返しがつくはずもなく、三成は暗がりの中耳まで真っ赤にさせながら桃から背を向けた。


「三成さん…?」


「…そなたを…愛しているから、元の時代に戻ってほしくない、と言った」


「そんな…そんなこと、嘘!」


――嘘呼ばわりされてむっとなった三成は、振り返り様桃を強く抱きしめて胸に抱き寄せた。


「ん…っ、いた、いよ…っ」


「俺は嘘など口にせぬ。もう二度は言わぬぞ、聞こえていたくせに聞き返すなど…は、恥ずかしいではないかっ」


冷静で切れ者の男がこうして真っ新な部分をさらけ出してくれることがとても嬉しくて、どの時代においても心に響く言葉…


「愛している」という言葉は、桃を激しくときめかせた。


「愛って…好きより上なんだよ?」


「そんなことは言われずとも知っている。そなたこそ俺の告白をどう思っているのだ?それでも元の時代に戻るのだろう?」


きゅっと唇を引き結んだその態度が肯定に取れて、つらそうな瞳で見上げてくる桃の頬を撫でた。


「…俺の告白は忘れてくれ。もうこれ以上そなたのことを大切に想うことのないよう努力する。…もう早く寝ろ」


「っ、三成さん…っ、やだ、離れていくようなこと言わないで…!」


――身体ごとぶつかってきた桃ともみくちゃになって倒れ込んだ。
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