優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成が、もう優しくしてくれなくなる――


そのただの想像は桃を驚くほど怯えさせ、不安にさせた。


――しがみついて離れない桃の身体は小刻みに震え、


一方的に想いを終わらせる選択をして、これ以上の深みにはまらないように心を閉ざそうとした三成。


「…どうしろと?」


「どうもなくないよ!三成さん、どうして?もう嫌いになっちゃった!?帰りたいなんて…私が思っちゃったから…?」


「それが本音だろう?そなたの姉御は…“関わってはいけない”と言っていた。だから…俺がしてやれるのは、そなたから離れることだ」


「っ、待って…、待って…!」


――身体を起こそうとする三成を布団に押し付けて腹に馬乗りになり、想いは同じと知りながらも…

この時代に留まることが許されない自分自身が悔しくて…涙が止まらなくなった。


「…もう泣いても俺には止められぬ。桃…退いてくれ」


三成の声もまた、震える。


今まで生きてきてはじめて“愛しい”と思えた女。

どうやって諦めようかとそればかり考えて…歯を食いしばり、上半身を起こすと桃を無理矢理引き剥がそうとした。


「親御は一緒に捜してやる。見つかったら…一緒に帰るといい。あの首飾りも返してやる」


「三成さん、やだ!なんでそんなことばっか言うの!?三成さんは私の気持ち考えたことある!?」


涙で頬を濡らしながら懸命にか細い声で叫んだ桃のその言葉に、やっと三成が反応し、切れ長の鋭い瞳をさらに細めた。


「なに…?」


「私だって三成さんのこと大好きだもん!!」


「…桃…っ」


思いもよらぬ桃からの告白に、三成は固まって動けなくなった。


ただまじまじと桃を見つめ、桃もまたその想いを真剣に訴えて…


首に腕を回して抱き着き、さらさらの黒い髪に指を潜らせる。


「好きだよ、三成さん…大好き…!」


――優しくしてくれて、不器用ながらもいつも傷つかない言葉を探して、慈しんでくれた人――


生きる時代が違っているとしても、この想いだけは伝えなくてはこの先生きていけない――


「俺も…桃を…愛している…!」


縺れ合う。


心も、身体も―
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