優しい手①~戦国:石田三成~【完】
はっと目が覚めるといつもは居ないはずの三成が隣に居て、じっとこちらを見つめていた。


「…ちょ、やだ…いつから見てたの…!?」


「そなたが気を失ってからずっとだ」
 

背を向けるとそのまま背中から抱きしめられてせつない吐息が漏れた。


「気を失うなど…俺の昂った気はどう発散したらいいのか悩んだぞ」


「わ、私のせいじゃないもんっ。ちょっと三成さ、耳に息吹きかけないで…っ」


「ここ以外にどこに弱点がある?謙信がいち早く見つけたらしいが…次は俺が必ず見つけてやる」


首筋にキスをされて身を竦めると三成が起き上がった。


「用意をしろ。秀吉様と茶々殿にしばしのお別れを申し上げに登城するのだ。着飾れ」


「でも私お化粧苦手で…」


「化粧などせずとも十分可愛らしいが………恥ずかしいことを言わせるな!」


また勝手に照れて部屋から猛然と出ていく三成の姿が逆に可愛らしく、笑い声をあげながらしばらく寝転がった後、部屋から出た。


庭先には上半身はだけて槍を無心に振るっている幸村が居て、桃に気付くと眩しいほどの笑顔を浮かべて駆け寄り、膝を折る。


「桃姫、お早いですね!よくお眠りになりましたか?」


「おはよう幸村さん!眠ったっていうか…うん、よく眠ったよ!」


朗らかに返して顔を洗いに井戸に向かうとその間に池の前に立って鯉に餌をやっている謙信が見えて、立ち止まる。


――池に乱反射する光が謙信の儚げな美貌にかかり、それがすさまじく美しく…


消え入りそうな色気に吸い込まれそうになって、胸を押さえた。


「おや、姫…おはよう。よく眠れた?」


「う、うん。謙信さん…おはよ」


「うん。今日は大坂城に行くんだよね。明日はようやく越後へ出立だ。長旅になるから準備は怠らずに」


こちらを一度たりとも見ずに笑みを浮かべながら言った謙信の隣におずおずと立つ。


「あの…昨日はごめんね?私…」


「ああ、謝らなくていいよ、私が全面的に悪かったのだから。つい獣の本性が出そうになってしまった」


舌を出してウインクをしてきた謙信に救われる思いで笑い返した。


この男の愛を断れるだろうか…?
< 154 / 671 >

この作品をシェア

pagetop