優しい手①~戦国:石田三成~【完】
清正が声の方へ振り返り、即座に膝を折って深々と頭を下げた。


「清正よ…お前はいつも三成に食ってかかってばかりだのう…。桃姫が怖がっておるではないか!」


――秀吉が親しげに桃に声をかけているのを見た清正はさらに頭を下げた。


「秀吉さん…」


「怖かったじゃろう?こんな熊みたいな男に迫られたら身が竦むのもわかるぞ。三成、桃姫とこっちへ来い」


「秀吉様!この女子…いえ、桃姫をご存じだったのですか?」


敵意むき出しで三成を睨む清正の顔が怖くて桃がまた袖を引っ張った。


誰にも見えないように三成が手を繋いできてくれて、ほっとして微笑むと…

清正はそれがまた気に食わなかったらしく、桃にでれでれする秀吉を軽く睨んだ。


「桃姫は三成の妻となる女子。祝言はいつが良いかのう、儂も立ち会うからな」


「しゅ、祝言!?」


あんぐり口を開けて驚く清正に、三成が咳払いをしながら秀吉を先に追いやる。


「そのお話はまた後日」


「否定せぬのか…。こんな面白味のない男のどこが良いのか…」


――とりあえず会話の内容は突っ込みどころ満載だったのだが、桃は紅を薄く引いた赤い唇を引き結ぶと自分でも驚くような大きな声で清正を怒鳴った。


「三成さんは優しいし面白いもん!」


…城内が静まり返る。


石田三成を“優しい”と言い、“面白い”と言った桃に皆が注目し、そんな桃自身は“間違ったことは言ってない”という強い決意を前にふんぞり返っている。


べた誉めされた三成はみるみる顔を赤くして、口元を覆って必死でそれを隠そうとしていたが…ばればれだった。


「わっはっはっは!桃姫よ、そなたはほんに面白いのう!聞いたか清正。お前と三成は儂の大切な子も同じ。仲良うせい」


「は…、はっ!」


気を削がれた清正が声を小さくしながら桃を盗み見る。


――桃がこの時代に来てはじめて“嫌い”だと思ったのが加藤清正。


それはもちろん三成を窮地に追いやったという史実の経緯があるのだが…


それにしてもやたらと馴れ馴れしくされて、好きになれなかった。


「桃…あ、あまり俺を褒めるな。…照れる!」


…叱られた。
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