優しい手①~戦国:石田三成~【完】
手洗い場まで秀吉に案内されている間、桃は秀吉からずっと手を握られていた。

通りすがる家臣たちからは驚きをもって見つめられては端に座り、それを見ないように深々と頭を下げる者たちに桃も丁寧に頭を下げつつ、秀吉がそれを見て笑った。


「桃姫、この者たちにいちいち頭を下げずとも良い!」


「え、だって…尾張を守ってくれてる人たちなんでしょ?みんなすごいよ、命を懸けて守ってくれてるんだから。尊敬しちゃう!」


――無邪気にかつ朗らかに笑った桃に家臣一同は目から鱗が出そうになり、秀吉にするよりも深く桃に頭を下げた。


「なんと!それもそうじゃったな、儂も元々はただの一兵卒。農民でしかなかった。それを忘れるところじゃった。桃姫、感謝するぞ」


「ううん、秀吉さんは三成さんや…清正…さんとか強い人が居るから安心だね!でも三成さんを借りちゃって迷惑じゃない?」


手洗い場に着き、とりあえず一度話を保留して事を済ませてすっきりして秀吉と合流すると、それまで桃の質問の答えを考えていた秀吉は扇子で肩を叩きながら髭を撫でた。


「まあ困らぬと言ったら嘘にはなるが。桃姫はあ奴の国の理想論を知っておるか?」


「ううん」


「三成はな、“笑顔が溢れる国”を目指しておるんじゃ。儂と同じよ」


「え?」


長い廊下を歩きながらの立ち話だったが、桃は思わず脚を止めた。

…今まで三成からはそんな話をされたことはなく、またこちらも聞いたことがない話。


秀吉はそんな桃の前に立つと、限りなく優しい目をして桃の肩を叩いた。


「儂らは皆“戦のない国”を目指しておる。そこに辿り着くまでには多くの民の流血が流れる。だがそれを持ってしても世を平和にし、民が笑って過ごせる道を三成は目指しておる。あ奴はあんな冷血そうな顔をしておっても誰よりも民を思うておる。だから儂は三成が必要なのじゃ。必ず三成と共に戻って来るのじゃぞ」


――返事のできない桃が俯くと、秀吉は桃に掌を見せた。


「これは鍬や鋤でできたたこじゃ。三成の手にも同じものがある。刀を握ってできたものではない。桃姫、三成から選ばれた姫を損得勘定なく儂は信用できる。三成を頼んだぞ」


その言葉が、自分のことのように嬉しかった。
< 160 / 671 >

この作品をシェア

pagetop