優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が秀吉と席を立ってからこっち、三成は一言も発することなく茶々の前に座していた。


…それを不服に思われているのも知っている。


「桃姫のための暇と聞きました。親御を捜すとか?」


「はい。ついでに敵国の情勢も見聞して参ります」


織田信長の姪にして浅井長政と、美女として知られた市の長女として生まれ、母譲りの美貌を秀吉から見初められ、側室となった。


心優しく芯が強いが…“秀吉の側室”以上の感慨は持っていない。


「…帰ってきたら祝言を挙げるのですか?」


「そうなるかと。時期は未定ですが、その時には茶々殿にもご参席頂きたく」


端的に述べてまた伏し目がちに俯いていると茶々がすっと立ち上がり、距離を縮めて目の前に座った。

顔を上げざるを得ない状況になってしまい、失礼のないように目を上げると…


白く細く優しい美貌は悲しみに彩られ、その瞳から涙が溢れ出ていた。


「茶々殿…?」


「そなたは…わたくしの想いを知っていて意地悪を言っているのですか?」


――由々しき事態になってきた。

やはり勘違いではなく茶々から特別な感情を抱かれてしまっていて、桃のことは本当に可愛がっているとしても…自分にとっては一大事。


「…あなた様は秀吉様のご側室。私はただの家臣。それに、あなた様には特別な想いは抱いておりませぬ」


「相変わらず…冷たいのですね。そなたの優しさは桃姫にしか見せるつもりはないのですか?わたくしがここへ嫁いだ時…優しくしてくれたではないですか」


「秀吉様から命を受けたまでのこと」


「三成…!」


――突然茶々から抱きしめられた。


だが三成は微動だにせず、膝に手を乗せたまま、低い声でぼそりと呟く。


「あなた様は私を打ち首になさるおつもりか?私の詮索はもう結構」


そう言って茶々を引き離そうとやわらかく茶々の腕を掴んだ時――


「三成さーん、ただい…………ま……」


「!も、桃」


襖が開き、桃が顔を出して…絶句した。


明らかに“抱き合っている”風体で、襖が音を立てて閉まる。


「桃!」


突き飛ばす勢いで立ち上がり、跡を追う。
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