優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信のような中性的で美しい男を見たのははじめてだった。


だが今は男らしく、少し目じりの下がった柔和な黒瞳の中に自分が映っているのが見えて…


――三成が茶々とこんな風に…と想像すると、また涙が滲んできた。


「謙信さ…、こういうの、いやじゃなかったの…!?」


「ああ、義を感じるか、ってこと?三成は姫を好いていながら茶々殿とあるまじき仲にあるかもしれない。私はもちろんそれに義を感じることができない。だから、姫を貰い受けようと思っているんだ」


…確かに“愛している”と言ってくれたのに…

他の女にもそれを言ったかもしれない、と思うと…自分がこうして惹かれている男の愛を受け入れても良いのではないかと思っていた。


「ここは伊達の部屋だから正直気が引ける。どうかな、私の部屋へ来る?三成と夜共に眠るのは…無理でしょ?」


「………うん…」


――もうどうなってもいい。

そう諦めかけた時――


「殿、三成が戻ってきました」


部屋の前で番を張っていた兼続が静かにそう言って桃と謙信にブレーキをかけた。


「ああ、そうなの」


「如何いたしますか。拙者が脚止めを…」


「いや、いいよ。このまま通して」


「や、いやっ!」


…こんなシーンを見られたくない。

あんな光景を見ても、三成には見られたくはない。


「私に任せておいて。姫は何もせずにそのままで。いいね?」


「……うん」


「兼続、通して」


「はっ」


ドタバタと足音がして、三成の緊張高まる声が聞こえた。


「何故桃が政宗の部屋に?…何故兼続がここに?桃は…」


「三成よ、心してかかれ。俺も…お前を少し軽蔑する」


「なに?」


少し押し問答をして、そして襖が開いた。


「三成か。今立て込んでるんだけど…なに?」


「…っ、桃…!?」


――押し倒され、二人は上半身裸だ。

背中を向けてはいたが、その背中には…数えきれないほどの唇の痕が残されていた。


「貴様…っ!」


「茶々殿と己を見ているようでしょ?私を…己を斬るならばそうすればいい」


――止まった。
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