優しい手①~戦国:石田三成~【完】
“茶々殿と己を見ているようだろう?”


――謙信にそう言われ、三成の脚が止まった。


「言っている意味がわからぬ。俺と茶々殿の間には何も…」


「抱き合っていたそうだね。茶々殿は秀吉公の側室にして寵姫。君は己の立場をよく理解していないようだ」


…抱き合っていたことは否定できない。

いや、一方的にしがみ付かれていたのだが…


ここで詳しく語ってしまい、茶々が隠している想いを他人に暴露するわけにはいかない。


「…」


入り口に立って黙り込んでしまった三成の背中を兼続が思いきり突き飛ばし、部屋の中へ入れると驚く三成の前で襖が乱暴に閉められた。


「よく見るがいい。傷心の桃姫を我が殿がお慰めあそばしたのだ。おぬしに勝ち目はない。我が身が起こした不始末を呪うがいいぞ」


――桃は背中を向けたまま振り向いてくれない。

何と声をかければいいかわからず、忸怩たる思いで鞘を握る手に力がこもる。


そんな三成を嘲笑うかのように謙信の右手が桃の背中を上から下へと、すう、と撫でた。

びくっと震えた桃の耳たぶに、これもまた見せつけるようにして謙信が優しく甘噛みする。


「貴様…!」


「茶々殿と何が起きたのか、どんな関係なのか…姫は聞きたくないんだって。義理堅い男だと思っていたけれど…見込み違いだったようだ」


――桃の肩が震えていた。


きっと今頃は悪い風に悪い風にと想像が働いて、今どれほど弁解しようとも、聞き入れてはもらえない。


だから三成は瞳に力を込めておもいきり謙信を睨みつけ、一度小さく深呼吸をして呼吸を整えると、言った。


「…そなたの想像しているようなことは茶々殿とは一切ない。桃…俺が昨晩言ったことこそが真実だ。…俺を信じてほしい」


「…」


「弁解の機会を許してもらえるなら、すぐ言ってくれ。俺がどんな男であるか、そなたが一番知っているはずだ」


――謙信をめった斬りにしてやりたかった。

桃の真っ新な身体に唇の痕をつけた…それだけで万死に値する。


…きっと今夜は寝所に来ないだろう。

謙信に丸め込まれて、身も心も我が物とされてしまうかもしれない。


――焦がれる。
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