優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信に手を引かれ、上杉の者だけになった部屋に入り、脚から力が抜けた桃はがっくりと肩を落としながら座り込んだ。


「兼続、お茶でも入れてきてよ」


「…」


「兼続?」


――愛しの主の声を聞き逃すわけがなく、正座した膝の上で握りしめた拳に視線を落とし、唇を尖らせている兼続。


「…あ、はっ!こ、これは失礼を…」


「どうしたの、珍しくぼんやりしてるね」


頭が切れ、よく気が付き、小回りも利く兼続を欲しがる国は数えきれないほど存在し、織田も秀吉も欲しがる人材の兼続は…


堅物で気の回らない親友の三成が茶々と密通しているかもしれないことを知って、猛烈に腹を立てていた。


本当は今すぐにでも一発頬を殴って目を覚ましてやりたかった。


――我が主君が桃を欲しがっていようとも、三成と桃は相思相愛だと思っていたのに――


「茶でござますね、では拙者が点てて参ります。桃姫、ごゆるりと」


「うん…兼続さん、ありがと」


気落ちが止まらない桃ににかっと笑いかけ、静かに部屋を出てしばらくすると足音高く三成の部屋に向かった。


「三成!この裏切り者が!俺はお前を軽蔑し………、三成?」


――いつも整然とされている部屋には書き散らされた紙が散らばり、散乱していた。


その中心には三成が座し、筆を走らせては紙を丸め、そこらに投げ捨てている。


「三成よ…俺は上杉の者だが言っておく。桃姫をこれ以上悲しませると…殿が本気になるぞ。殿が本気になれば戦でも恋の勝負でも、誰も太刀打ちできぬ。それでもいいのか?」


「…桃が来た時確かに俺は茶々殿と抱き合っているように見えたかもしれぬ。だがそれ以上はない。断じてない。秀吉様と、俺の名に懸けて」


「そうか。桃姫はともかく、殿にはその旨確と伝えよ。今までは平等に接しておられたが、義を感じれぬ相手にはとことん厳しいお方だ。殿に邪見にされる三成の姿を俺は見たくない」


「ああ、わざわざそれを言いに来てくれたんだな?すまなかった。もう少し頭を冷やしたら…謙信に会いに行く」


「殿が桃姫にこれ以上手出しせぬよう見張る故、早く決心を固めろよ」


――これは裏切りではなく、忠告なのだ。
< 168 / 671 >

この作品をシェア

pagetop