優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「三成様…拙者は反対いたしましたからね。何かが起こった後では取り返しがつきませんぞ」


「余計な心配はするなと言った。童女と思えばどうということはない」


――大山は三成の寝室に桃の布団を運びこみながらくどくどと忠告をしていた。

…いくら理性的かつ論理的で冷静な男であっても…間違いが起こらない、ということは言いきれないのだ。


「あの者、どこぞの間者やもしれませぬ。慣れ合うのもほどほどになさいませ」


「俺は違うと思う。いいからもう行け」


やはり忠告など聞かぬ男。
大山はため息をつきながら部屋を出た時、風呂上がりの桃とすれ違った。


「桃の布団は三成様の隣に敷いておいたぞ。…間違っても三成様にお手を出さぬよう」


「えーっ、それって普通逆じゃない?“三成さんが私に手を出す”でしょ?」


「な…っ!そんな馬鹿なことがあるか!三成様は女子にたいそう人気のあるお方。あの上杉の景虎に勝る美貌の方なのだぞ!そなたのような童女には興味なぞ持ってはおらぬわ!」


「ひどい!私だって、好きな人くらい………あ、居なかった」


大山にも桃が可憐で可愛らしい顔をしているのはわかっている。
だからこそ、三成が間違いを起こしそうな気がしてはらはらしていた。


「大山さん、おやすみなさい」


ぺこりと頭を下げて寝室へと入って行った桃に聞こえるように大山はため息をついた。


「お風呂いただきましたー」


これで1人で眠る心配はないと安心した桃ははしゃぎながら刀を枕元に置いた三成のすぐ隣にぴったりと座った。


「…離れなさい。何だ?」


「なんで刀を置いてるの?」


「いつ敵に攻め込まれてもいいようにだ。……桃、その浴衣はどうした?」


女に縁のない石田邸。

万が一の客用に一着用意はしてあったが、それとは違う。


「あ、これ?可愛いでしょ?町で買ってきちゃった。…あ、もしかして駄目だった?」


「あ、いや…うむ、似合っていていいと、思う」


途切れ途切れに言ってしまうのは、女子に賛辞など述べたことはないからだ。


「わい、よかった!さ、三成さん寝よ寝よ!」


無邪気に言う桃が小憎たらしかった。
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