優しい手①~戦国:石田三成~【完】
極力桃の布団から離れた所で布団を敷き直した三成の態度に憤然と立ち上がると三成の布団を自分の布団の隣まで引っ張った。


「桃!」


「怒ったって駄目!…お願い、これだけは許して!」


もののけが本当に怖いのか、神仏を拝むように手を合わせてお願いしてきたので、肩肘を張っていた三成もさすがに子供じみた自分の態度に反省するとやわらかい黒髪をかいた。


「…間違っても、間違いなどは起こらないが…世間体というものもある。大山の態度を見たか?勘違いを…」


「勘違いしたっていいじゃん!1人で寝るよりずっといいもん!」


――もう何を言ったって無駄な気がする。


なのでそのまま何も言わずに布団に入ると、桃も慌てて布団に入って横向きになって笑った。


「家でも1人で寝たことないの。怖いじゃん、お化けが出そうで!」


「だからそんなものは居ない」


「鎧とかあるし…怖いもん」


そう言いつつすでにうとうととし始め、逆に三成は目が冴えて仕方なかった。


「甲冑はあるが…霊など俺は信じてな…、ああ、もう聞こえてないか」


すうすうと寝息を立て始めた桃に呆れかえりながらも、寝顔を見てしまわないように桃から背を向けた。


…全く調子が狂いっぱなしだ。
このままでは石田三成…人格の崩壊が始まってしまうかもしれない。


「…眠れぬ…」


――そう呟いてから数刻。

眠れない、と言ったはいいものの、三成にも睡魔がやって来てとろんとなりはじめた時。


――何やら自分の布団が動いた。


「…?」


肩越しに振り返ると…


桃が自分の布団に入ってきていた。


「も……、桃!」


「風の音が怖い!三成さん、お布団に入れて!」


「や、やめろ!同衾はせぬと…」


「どうきんってなに?!そんなのいいから一緒寝よ!早く寝よ!」


ぎゅうっと目を閉じて、ぎゅうっと抱きついてきた桃に思わず三成はガチガチになった。


「や、やめぬと怒るぞ…!」


「怒っていいよ!なんにもしないからお願い!」


――なんにもしない、とは!?


…夜中、三成は叫んでしまいそうになった。
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