優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――前方をものすごいスピードで走っていく桃の後ろを三成たちが追いかける。


だが…一様に黙ってしまっているのには、それなりの理由があった。


「…おい、誰か桃姫に言わぬのか?」


――口を開いたのは政宗で、追随する三成にそう言うと、前を走りつつ気持ちよさそうに太陽を見上げている桃に視線をやり、口ごもった。


「お、俺には言えぬ!」


「言わなくてもいいんじゃない?私は眼福だもん、絶対言わないよ」


頑として否定する三成と、朗らかに笑いながら桃に視線をやって笑う謙信。


彼らが口ごもる理由とは…


「クロちゃん、飛ばし過ぎるとバテちゃうからゆっくり走ろうよ!」


前のめりになり、生命力溢れる濃い山林を走り抜ける桃の後ろ姿――

…桃はセーラー服を着ている。

そして、前のめり。


「…可愛らしい尻をしているな」


「!政宗公、不謹慎だぞ!」


抗議すると、謙信が何度も頷いて納得しながら少しスピードを上げた。


「私も思ってたよ。姫のお尻は可愛いよね」


「謙信公!」


先を行き過ぎて立ち止まり、クロの鬣を撫でてやっていた桃に追いついた謙信が、

前のめりになってクロから降りずに首をよじって桃を見ているクロの鼻面を撫でていた時…


「うひゃあっ!」


「可愛いお尻がずっと見えてたよ。私以外の男に見せては駄目だよ」


なで、と前のめりになっていたため突き出していたお尻を撫でられて素っ頓狂な声を上げた桃がクロから飛び降りた。


「も、もおっ、謙信さん!」


「夢にまで出てきそうな光景だったけれど…まあ実際私が姫を背後から襲ってもっとすごいことをする日も近いだろうから、楽しみだなあ」


“近いうちに襲うから”宣言をした謙信はまたやわらかく笑って、絶句する桃から視線を外して追いついてきた三成たちを待ち構えた。


「わ、私っ、ちょっと着替えてくるから!」


「うん、そうした方がいいね」


――バッグを手に茂みの中に駆け込んでゆく桃を優しく見つめながら、小さな声で呟いた。


「軒猿、姫を頼んだよ」


「はっ」


頼もしく返ってきた返事に、静かに瞳を閉じる。
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