優しい手①~戦国:石田三成~【完】
尾張を抜け、川沿いの畦道を走る。

家屋はなく、広がるのは山野と渓流のみで、隠れる場所がどこにもないという意味がわかった。


「私たちは絶好の獲物になっちゃってるだろうね。姫、ここからは突っ走るんじゃないよ、危ないから」


「うん…」


すっかり意気消沈してしまった桃を思いやり、政宗が馬を寄せて桃に差し出したのは山に成っていた桃だった。


「この桃美味いぞ、食ってみろ」


「わ、ありがとう!美味しそう!」


「うむ、きっとそなたもさぞかし美味いのであろうな」


にかっと笑った政宗に心配されていることに気付いた桃は、思いきりがぶっと桃にかぶりついて、その甘さに目を輝かせる。


「おいしーい!それにこの果汁…すごいね!」


手が果汁でべたべたになってしまい、クロの鬣にもついてしまって拭くものもなく、スカートで拭こうとした時…


いきなり手を引き寄せられたと思ったら、桃の指は…謙信の口に収まった。


「うん、美味しいね。…ほら、綺麗になったよ、ご馳走様」


最後に舌でちろりと指先を舐められて、飛び上がる。


「も、もおっ!」


「あ、姫、そのまま動かないでね」


「え?」


ギイン!

金属音がして思わずクロの背に伏せると…


横には、いつの間に刀を抜いた謙信がどこからか放たれた矢を一刀両断にしていた。


その横顔は凛々しく…きゅっと引き結んだ薄い唇が低くもあたたかくて優しい声色で桃の名を呼んだ。


「桃姫、怪我はない?」


「う、うん…ありがと」


「兼続、矢じりを見てごらん。…毒だ」


「はっ、かたじけない!殿、拙者と小十郎殿は軒猿と黒脛巾組を率いて辺りを囲みまする!」


「うん、三成と幸村も先遣部隊として先に行っちゃったし。私と政宗だけで桃姫を守れるかなあ、心配だなあ」


――地に落ちた真っ二つの矢を見つめた。


命のやりとりなんか、桃の時代にはあり得ないことだった。

だが、ここでは日常茶飯事で…自分も例外ではない。


「三成さん…」


心細く呟いた桃の両肩を謙信と政宗が優しく叩いた。


「任せて」


それでも、心細かった。
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