優しい手①~戦国:石田三成~【完】
兼続と小十郎の健闘のおかげでその後は刺客に襲われることもなかったが…


山を越えたところに宿があり、

ようやく三成と幸村に追いついた桃たちは、そこであらかじめ軒猿が用意していた新たな馬を乗り換えることにして、小さいが清潔で簡素な宿屋に脚を踏み入れた。


気が付けばもう夕刻。

宿屋の周りは軒猿たち忍者集団が秘密裏に囲み、宿屋の主人たちの身辺も調べてあって抜かりがない。


「いたた…」


思わず桃がそう漏らして中腰になったので三成がさすがに心配になり、桃の腰を優しい手つきで擦った。


「どこか痛いのか?」


「お尻がちょっと…」


――馬に乗り慣れていないと、お尻が痛くなる。

しかも結構速度を上げて駆け抜けていたので、馬上で身体が跳ねる度にお尻が擦れていて、

皆の前でそれを告白するのは恥ずかしかったが、それよりも三成が話しかけてくれたのがとても嬉しかった。


「三成さん…ありがと」


「…何が」


「やっと話しかけてくれたから…。私、嫌われたんじゃないかと思って…」


「そんなことは絶対にない。…むしろそなたが俺を避けているものだと思っていた」


…図星を突かれて頭が上がらなくなった桃の腰を軽く叩いて三成が中へ入って行く。


「湯殿をご用意しておりますのでぜひお入りくださいまし」


「わ、嬉しい!」


桃は喜んだが、通された部屋を一度ぐるりと見渡すと桃の前で跪いた。


「桃姫、お一人は危険です。せ…せ…拙者が見張りに…」


「え…」


「ご、ご心配無用!目隠しをいたしますし、姫の柔肌を見ようなどとは…!」


「その役目は俺がやる」


早速始まったお役目騒動に終止符を打ったのは謙信だった。


「交代でいいんじゃない?まずは誠実で間違いが起こるはずがない幸村でいいと思うよ」


二階の窓から落ちてゆく陽を眺めてそう言った謙信の横顔は美しく、


そして油断なく押入れや掛け軸の裏などを探っている三成の怜悧でいて、大好きな三成の手に見入る。


「ほら姫、陽が落ちないうちに行っておいた方がいい。幸村、頼んだよ」


「はっ」


運ばれた酒に、早速手が伸びた。
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