優しい手①~戦国:石田三成~【完】
風呂は露天風呂だった。

竹の柵で囲まれ、目の前は鬱蒼とした竹林。

あまり温泉に入ったことのない桃は嬉しさのあまりはしゃぎ、早速セーラー服を脱ぎ捨てると愛用しているタオルを巻くことも忘れて中へと入って行く。


「うわあ、すごーい!」


「ごゆるりとお楽しみくださいませ」


脱衣所から出てすぐの所に幸村がきちんと正座して頭を下げた。


…もちろん宣言通り目隠しをして。


「目隠ししてたら敵が来たら危ないんじゃない?私タオル巻いてくるから…」


「いえ、何がどこにあるかはすでに把握しておりますし、刺客の気配などすぐにわかります故」


頑なにその場から動こうとしないので、仕方なく桶に湯を掬い、軽く身体を洗うと中へと入った。


「わぁっ、ヤバい!気持ちよすぎるーっ!」


「道中お疲れでしょう、我々は慣れております故疲れはありませんが…」


――目隠しをして端正な目元が隠れた幸村が感情を押し殺した抑揚のない声で淡々と語るので、手で水鉄砲を作ると幸村目がけて発射した。


「!?」


「あはっ、驚いた?ごめん、顔にかかっちゃったね」


「は…、あ、あの…」


「え?どうしたの?」


「い、いえ、何でもありませぬ…」


「ねえ幸村さん、手が届かない背中を擦ってくれない?タオル持ってくるね!」


「え!?も、桃姫、あの…っ」


――必死になって桃に事実を告げようとするのだが、桃はもう脱衣所に消えてしまって、幸村は熱気のせいではなく、興奮で顔を真っ赤にさせた。


「ひ、姫…目隠しが濡れて…全て見えております………」


い、意外と胸が大きい。


それに、女の裸を見たのは、これがはじめてだった。


それも万遍なく見てしまい、ずきずきと疼く身体が暴走しようとして幸村を突き動かす。


「お待たせ!あれ?幸村さん…もしかして湯気で上せちゃった?」


「!い、いえ…お、お背中お流しいたします!」


――ぺたんと座った桃の背中に立ち、その白い肌をしばらく見つめた。


…手が伸びる。
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