優しい手①~戦国:石田三成~【完】
女子の裸を見たこともなければ、その肌に触れたこともない。


――純情一直線の幸村は、背を向けて擦ってくれるのを待っている桃の背中側でわなわなしていた。


「?幸村さん?」


「!申し訳ありません!し、失礼いたします…」


力加減もわからず、自分が普段しているようにごしごしと手荒に身体を擦ると、桃が小さな悲鳴を上げた。


「痛い痛い!」


「はっ、面目ありませぬ!」


桃の右肩に手を添えて、今度は丁寧に丁寧に、を心掛けて身体をタオルで撫でていくと、ほう、とため息が聞こえた。


「気持ちい…。みんなも一緒に入ればいいのにね」


「いけません!女子たる者、男に簡単に肌を見せては…見せては……っ」


桃の脇の下から膨らんだ胸がちらちらと見える。

…もう目隠しはあってないようなものだったが、その事実を幸村は告げることができずに、桃にタオルを手渡した。


「お、終わりました。では拙者は戻らせて頂き…」


「幸村さんの背中も擦ってあげる!脱いで!」


「は!?いけません!拙者は見張りですのでどうぞ姫は露店風呂をご堪能ください!」


「えー、じゃあ今度擦ったげるね!」


――全くもって、男にとっては夢のような光景、そして提案だったが…


幸村は今目の前にある光景を絶対に忘れまい、と心に誓った。


――そして桃はもちろん誰も見ていないと思っているので、岩風呂に入る前に全裸のまま思いきり大きく幸村の前で伸びをした。


「ふわあ、疲れが取れた気がする!ごめんね幸村さん、もうちょっと待ってね!」


「は…、はっ!」


…目がチカチカした。


余すことなくすべてを見てしまって、鼻血が出そうになって慌てて鼻の筋を指でつまんで挟む。


――そしてよくよく考えれば、今のこの光景は…軒猿たちも見ているのだ。

それを考えるといても立っても居られなくなり、宿側が用意していた湯着を片膝をついて桃に差し出した。


「どうかこれを!」


「え?でも誰も見てないよ?」


「いけません!どうか拙者の為にも…!」


「?うん、わかった」


…今夜は絶対に眠れない。

だが、幸せだった。
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