優しい手①~戦国:石田三成~【完】
浴衣が太股まで捲れ上がっていて、すらりとしていて白い太股に皆の視線が集中する。


「酒の肴にはちょうどいいね。三成、その役目、私が代わってあげるよ」


「結構。貴公ならばそれだけでは済むまい」


「当たり。これはまた可愛らしい寝顔だ。昨晩は姫の寝顔が見れなかったから」


「いや、一段と株を上げたのは貴公だ。刺客を倒し、桃姫を救ってみせたのだからな」


忌々しいが誉めざるを得ない健闘をしたものの、本人は至って平然としていてまた酒を呷る。


「姫が起きてくるとは予想外だったけれど…ほら三成、これをかけてあげて」


立ち上がり、押入れの中から薄い掛け布団を引っ張り出すと三成に手渡してまた飲み比べを再開した。


今までぎくしゃくとしていた三成はかなりこの時点で出遅れていたが、

こうして桃が隣に座ってくれたことはとても嬉しくて、茶々との誤解が解けた今でも桃が遠慮して距離を取っていることには気が付いていた。


「…貴公らは桃が元の時代へと帰ることについては承知しているのだろうか?」


不安にかられ、二人にそう聞いた三成は勢いを取り戻そうと豪快に酒を一気飲みした。


政宗はその問いに首を振った。


「いや、ないな。最初は天下取りの為にと桃姫を欲したが、今は違う。天下など俺が本気を出せばいつでも取れる」


「…で、謙信公はいつぞやか桃の意志を尊重すると言っていたが?」


――戦においても恋の戦においても、最も強敵と思われる上杉謙信は中性的なその美貌に儚い笑みを浮かべて、三成の膝ですやすやと眠る桃に優しい視線を降らせながら、少し考え込む。


「そうだね、“帰りたい”と言うならば…止めるのは筋違いだ。だけど、“帰りたくない”と言うならば…桃姫は私が貰い受ける」


いつになく断固たる口調できっぱりと言ってのけた謙信に、三成も政宗も思わず喉を鳴らして見入った。


この男の場合、願いは今まで全て叶ってきている。

どんな武将からも尊敬されて、崇拝されてしまう謙信が今一番欲しているのが、桃。


――思わず守るようにして桃の肩を抱き、今度は三成がきっぱりと宣言した。


「貴公には渡せぬ。桃に権力争いなど見せたくはない」
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