優しい手①~戦国:石田三成~【完】
国を統治する上杉謙信や伊達政宗の正室や側室になれば、必ずや権力争いに巻き込まれることは必須だ。

しかも男の世継など生まれてしまうと、さらにその装いは激化する。


桃にはそんな血を血で争うような目には遭ってほしくはない。


「私は元々正室も側室も娶るつもりはなかったから、桃姫を貰い受けたら他は要らない」


…ここまで腹を割った話をはじめてされた気がした。


謙信は、思った以上に真剣に桃を想っている。


「天下取りの前に俺たちは為さねばならぬことがあるようだ。…桃を誰が手に入れるか、勝負だな」


火花を散らして対峙した時――


「んんぅ、三成さん…、むにゃ…」


桃が寝返りを打ち、三成の手を握ってきた。


思わず頬を赤らめていると、謙信が突然ひとつの提案をした。


「ねえ、皆で風呂に入ろうよ。埃まみれで寝るのは抵抗があるんだけど」


「なに?温泉で比べるのだな?あれを!」


意気込んで謙信からの喧嘩を買った政宗が立ち上がった。


「三成、行くぞ!」


「じゃあ小十郎と兼続と幸村を呼び戻して姫を守らせて、私たちは温泉に行こうか」


――程なくして戻って来た三人と入れ替わりに温泉に向かい、脱衣所で率先して脱ぎ始めた謙信の身体は傷ひとつなく…


刀傷も矢傷も受けたことのないその鍛え抜かれた身体に、政宗が称賛の声を上げた。


「素晴らしいな!さすがは我らに喧嘩を売るだけはある!」


「いや、政宗も三成もそれは名誉の傷。仲間を守り、国を守った証だよ」


隠しもせずに全裸になった謙信の身体中心からやや下に2人の視線が集中した。


「む…これは強敵!あの男、弱点というものはないのか!?」


「四の五の言わず早く入られよ」


そして三成も同じように服を脱いで、政宗から目を見張られた。


「やや、おぬしも…」


政宗を無視して中へ入ると、すでに謙信は岩風呂に浸かっていて、顔を洗っていた。


「気持ちいいね、こういう旅は初めてだ」


「一国一城の主たる者うかつに旅などできぬだろう」


「まあね。でもこの旅はこれで最後にしたいな」


――桃を手に入れるための旅。
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