優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃がべったりと背中に張り付いて必死になってしがみついていた。


「や…やめぬか!女子たるもの、ひとつの布団に男と寝ることがどういうことだかわかっているのか!?」


「そんなの知らないもん!風の音が怖いんだってば、寝れないんだってば!三成さん、お願い!こっち向いて!」


「だ…駄目だ!桃、離れなさい!」


――ひたすら二人で押し問答を繰り返す。

元々頑固者の三成は鉄壁の理性でもって桃を何度も拒絶したのだが…

終いには涙声になって泣き出した桃に…陥落してしまった。


「…童女と思えば、どうということは、ない…」


そう自分に言い聞かせながら桃の方を向くと、涙に濡れた頬を拭きながらもようやく笑った。


「ごめんね、わがままばっかり…。やっぱり私、違う時代に来ちゃって少し怖いみたい…」


「それはそうだろう。俺とて未だにそれを信じることができぬ。早く“おーぱーつ”とやらを見つけて帰るのだぞ」


「うん!ありがとう三成さん!」


――こともあろうか、今度は三成の胸の中に転がり込むと、またもやひしっと抱きついてきた。


「…!!」


「三成さん…お父さんみたい…」




…お父さん!?


――急激に高揚感が消え失せた。


「…俺はまだ二十七だ。桃、俺だからいいものの、他の男に同じようなことはせぬように…」


「うん…しないよ。…あったかぁい…。三成さん?心臓の音がすご…」


「う、うるさい!早く寝ろ!」


――一心不乱に暗示をかけて寝ようとした時…


桃が頬にチュッと唇を押しつけた。


「な…っ、何を…!」


はじめてそんなことをされた三成は気が動転して桃の肩を強く押したが…

桃はあっけらかんとしていて、また胸に頬を擦り寄せて来る。


「親愛の印だよ。明日から毎日しようね」


…冗談ではない!


またもやがみがみと叱りつけそうになってしまったが、それをぐっとこらえて桃の頭をぽんぽんと撫でてやった。


「…それはしなくていいから、早く寝なさい。寝るまで起きていてやる」


「やったあ!ありがとう三成さん!」


ある意味、生き地獄だった。
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