優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成は早朝布団を抜け出て外へ出て行った。

…自分の布団はもぬけの空で、その隣には謙信が眠っている。


――ただ単に瞳を閉じているだけなのに、静謐でいて凛とした印象が崩れることはない。


朝ぼんやりと謙信の寝顔を見つめていると…


「ふふふっ」


笑い声が漏れた。


「謙信さん?」


「何でそんなに私を見ているのかな?ちょっと気恥ずかしいんだけど」


そう言って背を向けたので三成の枕を抱きながら起き上がり、窓を開けて外を見ると上半身裸になった三成が川辺で刀を振るっていた。


「あ、三成さんだ」


声を上げて手を振るが、一向に気づいてくれないので外へ出ようと身を翻すと、どんと何かにぶつかって鼻をぶつけた。


「いったぁ…」


「姫、夜更けにいけないことをしていたね。気付かなかったと思っているの?」


「!え、えっと、それは…」


「姫が布団に潜り込んでくるのを私も待ってたんだけどなあ」


腕を絡め捕られながら胸に抱きしめられて、眠気が一気に吹き飛んだ。

良い香りのする謙信は危険すぎる――


だが窓辺に追いつめられて逃げ場のない桃に背を屈めて視線を合わせ、その時はじめてその瞳に見たことのない色が浮かんでいるのを見た。


…嫉妬だ。


「私だったらあんな小さな喘ぎ声では済まなかった。だけどおかげで夜は眠れなかったよ」


「そんな…謙信さん、離して…っ」


「比べてみてよ、私と三成の唇を」


――息つく間もなく激しく重なってきた唇が桃の身体を大きく揺らした。


「ぁ…っ、謙信さ…っ」


この光景が外に居る三成に見えているのではないかと焦りつつも身体が言うことを聞いてくれない。


「も…、私、行くから!」


なけなしの力を振り絞り、身体を押して突き飛ばすと一目散に三成に向かって走り出す。


――三成に近付くと、その刀身のように研ぎ澄まされた細い身体は汗で濡れていて、桃に気付いた三成が手を止めた。


「桃?早いな」


「…うん。ねえ三成さん、背中流してあげるよ。お風呂で汗流したら?」


固まる三成から視線を外し、窓を見上げた。

…居なかった。
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