優しい手①~戦国:石田三成~【完】
脱衣所で、汗に濡れた服を脱ぎ捨てつつも、三成はずっと首を傾げていた。


「桃から“風呂に入ろう”などと…有り得ない」


――謙信に翻弄されていることは仕方ないとして、いつも“駄目!”の一点張りな桃が積極的なのは…


ものすごく、違和感がある。


「三成さーん、まだあ?」


「い、今行く」


脱衣所を抜けると湯気に包まれて一瞬視界を奪われたが、徐々に見えてきたのは…桃が目隠しをして湯着を着て、桶を逆さにして座っている姿だった。


「…何故目隠しをしている?」


「え、だって幸村さんも目隠ししてくれてたし…男の人の裸なんか見慣れてないから…」


相変わらずの奥ゆかしさに苦笑しつつ、通りすがりがてらするりと目隠ししている布を外すとそのまま岩風呂に入った。


「そなたも入ったらどうだ?」


肩や腕にしばらく視線が注がれている気配がしていたが、そのまま大人しく横に入ってきたので、逆に三成は慌てながら距離を取る。


「ど、ど…どうした?」


「あのね…謙信さんがね…すごいの」


具体的にどうすごいのかを語らずに湯の中で膝を抱えた桃の顔に向かってばしゃっと湯を飛ばした。


「殊に桃に関してはあの男、ゆるゆると目覚めつつある。なおいっそう激しく迫ってくるぞ」


「そ、そんな…」


――“そんな…”と言いつつ嫌がっている風ではなく、

謙信と自分が今天秤にかけられているのが手に取るようにわかって、それでも三成は自身信を主張することを避けて、桃自身が決断するように諭す。


「身を委ねたい、と思うならばそうすればいい。そうすれば少なからずともそなたはこの時代に残ってくれる。俺は…それだけでいい」


「三成さん…」


――湯の中で、桃が手を握ってきた。

応えるように指を絡めると見つめ合った。


「…桃」


「っ、み、三成さん、背中流してあげる!上がって上がって!」


岩風呂から出て岩に腰かけると、また桃が遠慮しながらも、何度も何度も身体を盗み見する視線とかち合う。


「桃?」


「あ、そうだ、洗うもの…洗うものがないね、手でいっか!」


「手!?」


つい叫んだ。
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