優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が迎えに来るまで爆睡していたクロが急に耳を立ててがばっと起き上がり、鼻を鳴らした。


「クロちゃーん、おはよ!」


桃の手からしか餌を食べないこの軍馬は桶に山々と積まれた飼い葉を食みつつ早く桃を背に乗せたくて、水をがぶ飲みして鞍を持って待つ幸村に向かって背を向ける。


「桃姫、今日も早足で駆けますので疲れが出ましたらすぐに申しつけてくださいませ」


「うん、ありがとう!」


にこ、と微笑み返した六文銭が目印の爽やかな男はクロに鞍を乗せて、桃を軽々と抱き上げるとすでに軽武装して替えの馬に乗っている三成たちと合流した。


腰に刀、

籠手、脛当てなどの武具がガチャガチャと重い音を立てて、夜な夜な甲冑が歩くのではないかと気が気ではない桃にとってはあまり気持ちいいものではなかった。


「よし、行こうか」


自然と謙信が号令をかけ、皆がそれに続いて徐々にスピードを上げる。

その間も周囲は忍者集団に囲まれて守られており、さらに桃の周囲を幸村や三成が並走した。

そして政宗と謙信が自ら的になるかのようにして先導して走り、緊張感のない会話を繰り広げていた。


「ねえ、今宵は私が桃姫に背中を流してもらうから政宗は隣に寝てもいいよ。それとも私が今夜桃姫の隣に寝て君が背中を流してもらう方がいい?」


「うぬ、究極の選択だな!しかし俺は己が洗われるよりは桃姫を洗いたいぞ!」


…かなり緊張感がないが、

当本人の桃は幸村と何やら楽しそうに話していて、常に集中を欠かさない三成には前を行く二人の会話が聞こえていて、


改めて桃の身の安全を図らなければ、と思いつつも政宗と謙信が急に馬を止めたので、手綱を絞ってそれに倣った。


「あれは罠だな」


「うん、罠だね。どうする?」


顎に手をあてて何やら思案している謙信のお隣に馬を寄せると…


視界に捉えられるぎりぎりの位置で、女が右脚を押さえるような風にして道の真ん中で座り込んでいた。


「あ、誰か居る!女の人だ…怪我してるの?」


「姫、危険です」


「殿、いかがいたしますか。あれは罠の何物でもありませぬが」


「うん、でもまあとりあえず助けてみようか」
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