優しい手①~戦国:石田三成~【完】
儚げでいて線の細い身体――

後ろ姿だけで美女だとわかるその女に、政宗が声をかけた。


「どうした、怪我をしたのか?」


「はい…脚をくじいてしまって…」


「政宗、後ろに乗せてあげたら?最寄りの宿まで送ってあげよう」


面白そうに謙信がそう提案すると、差し伸べた政宗の手よりも馬上で欠伸をしていた謙信に向けて、女が手を差し伸べて顔を上げた。


「おやおや」


「やや、これはいい女子だな」


――髪は結い上げておらず肩のあたりでゆるく結ばれていて、病弱を思わせる白い肌と、誘うように少し開いた唇…

痛みに潤んだ黒瞳は少し垂れていて、謙信になお手を差し伸べていた。


「私の後ろがいいの?ぐさっと刺したりしないだろうね?」


早速兼続が一度馬から降りて一度小さく頭を下げた。


「失礼する」


「きゃ…っ」


容赦なく身体をまさぐり、武器を隠していないかをチェックすると女を抱き上げて自らの馬に騎乗させた。


「こちらの方は高貴な御方。御身の安全を図るため、従者の拙者がご案内いたします」


「…はい…」


それでも名残惜しそうに謙信を見つめていたが、もうすでに興味が失せたのか、謙信は心配そうに女を見ている桃の隣に馬を寄せた。


「脚をくじいてるみたいだけど、近くの宿で下ろしたらまた駆けるよ。大丈夫?」


「うん、私は大丈夫だけど…綺麗な人だね!」


「綺麗だけど私は桃姫の方がいいなあ」


「謙信公、先に行くぞ」


三成がクロの尻を叩いて走らせると、桃がまだ立ち止まっている謙信たちを振り返りながらも三成に問いかけた。


「置いて行っていいの?」


「あの女は間諜だろう。俺たちを罠にかけるために用意されたに違いない」


「え!そんなふうには見えなかったけど…」


「いえ、あれは罠です。姫、どのような言葉にも耳を傾けてはなりません。危険な匂いがします」


追いついた幸村が張りつめた表情で心配する桃に言い聞かせた。


「みんながそう言うんなら…そうなのかな…」


素直に育った桃にはまだ戦国時代で繰り広げられる罠や裏切りの嵐を見抜く目など持ち合わせてはいなかった。
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