優しい手①~戦国:石田三成~【完】
寝不足になるにちがいないと思っていたのに――


「三成さん…」


「…ん…」


「三成さん、ちょっと…痛い…」


…?


桃の声がすぐ近くで聞こえたような気がして目を開けると…


自らが、桃を強く抱きしめて眠っていた。


「!!」


「やっと起きたー、よかった!すっごい力でね、ちょっとびっくりしちゃった」


寝癖を撫でながら起き上がった桃を、

自分が起こした珍事に呆気に取られている三成はただ呆然としていた。


「今日もお城勤めでしょ?朝ごはん作ってくるねー」


何となく少し恥ずかしそうに赤くなった桃を見て、

またもや三成は絶句しながら内心絶叫していた。


…俺は何をしたんだ!?

――しかも…右腕が痺れている。


腕枕だ。


「あ、有り得ぬ…!僅かな物音で起きる俺が朝まで…熟睡!?」


ぽかーんとしている三成の様子を見に来た大山が思わず吹き出すほどにこの時の三成は普段きびきびとしている三成ではなかった。


「桃はもう行きましたぞ。三成様…やはり早々に追い出した方が良いのでは」


「…ああ。今度桃が探しているものに付き合う。厄介なことだ」


だが大山は逆にそれを良い傾向としてとらえた。


著しく表情に欠け、

相手がどんなに位の高い人物であろうともずけずけと物を言う三成に反発する者は多い。


秀吉からの覚えはすこぶる良く、天下取りに三成は必要だといつも周囲に漏らしては反目を買っていた。


「しばらく好きにさせてみては」


「ああ…。ただしあの格好…少々目立ちすぎる」


異国から次々と不思議なものが渡ってきて、

織田信長はそれらを集めては楽しんでいるらしい。


桃が見つかっては大変だ。


「秀吉様にお目通りを願う。桃を会わせなくては。庇護を求めよう」


きっと火種になってしまうだろう。


その前に万事体制を整える必要がある。


「どうでしょう、このまま桃を娶っては…」


「馬鹿を言うな。童女には興味はない」


そう言いながらも数年後美しくなる桃を想像してみては複雑な思いにかられた。
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