優しい手①~戦国:石田三成~【完】

あなたを知っている

もちろん桃にとっては清野に会ったのはこれがはじめてで、思わず三成を見上げた。


「桃は尾張の者。どこから流れてきたのか知らぬが、そなたと桃が今まで会ったことなどないはずだ」


「ですが…その恰好…桃……とけい…」


「時計!?」


――この時代にはまだ“時計”は存在しておらず、かろうじて南蛮から貴重なものとして高貴な身分の者は所持しているとしても、清野のような庶民の女子が知っているはずがない。


「壊れた、時計……どこかから来て…うぅっ」


「清野さん!?」


急に頭を押さえてうずくまったので、桃が慌てて清野を抱きしめた。


「大丈夫?!三成さん、清野さん熱があるみたい!誰かお水!私お布団敷くから!あとあと…」


「桃、落ち着け。布団なら俺が敷くから水をもらってこい」


「う、うん!」


大声で主人を呼んで、その間に三成が布団を敷いて力ない清野の身体を抱き上げると布団に寝かせた。

…確かに身体が熱く、熱があるのは嘘ではないようだ。

ますます何物なのかが計り知れなくなり、しかも桃が同情してしまっているので、強く問い質すこともできない。


「はいこれ飲んで。薬草と同じで飲むと楽になるから」


「はい…」


肩を抱き起して鎮痛剤を口に含ませて水差しから水を飲ませると嚥下し、また寝かせた。


「聞きたいことは沢山あるんだけど…今はゆっくり寝てて。また会いに来るから」


「ご迷惑をかけてしまってごめんなさい…。ちゃんとお話しますので…」


「うん、あとこれ」


湿布を腫れている踝に貼ると一瞬飛び上がった。


「あ…冷たい…」


「でしょでしょ?すごいでしょ?これが熱を吸ってくれるからこのままつけててね。じゃあまた来るね」


深々と頭を下げた清野に手を振って、良いことをしたと自負している桃は三成に満面の笑みを浮かべた。


「あれでだいぶ楽になるよ、よかったねえ、私も嬉しい」


「…警戒を緩めるな、と言っても無理なようだな。だから俺が桃の分まで警戒しておく」


「ありがと!」


仲良く肩を並べて2階へと上がり、部屋へ戻ると皆が出迎えてくれた。

また笑顔が溢れた。
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