優しい手①~戦国:石田三成~【完】
冴え冴えとした月のような印象を思わせた。


上半身服を脱ぐと、白いが鍛えられた胸に手を導かれて、熱く昂る血潮が巡る音を掌で聞いた。


「早く越後へ行こうね、景虎や景勝も喜んでくれるよ。その前に…ここで私と契ろうよ。もう我慢させないでおくれ」


桃にはそれが演技なのか本当なのかわからず、普段穏やか過ぎる謙信が時折見せる男らしさに翻弄されて、身体が言うことを聞かなくなってしまう。


「わ、私、三成さんが…っ」


「しー。まだ見られているよ」


耳を中心に攻められつつも、掠るように胸に触れてくる手の動きが脳髄を溶かして、何も考えられなくなった。


“見られている”…

誰に見られているかもわからなかったが、ましてや三成には絶対に見られたくはない。


――けれど、目の前の上杉謙信は普段とは全く様相が違い、唇が身体を撫でる。


「…っ、や、謙信、さ…っ」


「謙信って呼んで。景虎でも可。あ、やっぱり駄目。謙信で」


異常に燃え上がる身体を愛しむように撫でる唇の優しさを与える謙信の瞳もまた、演技かどうかわからないが潤んでいた。


抗いがたく、もう駄目だと思った時…


「何奴!」


部屋の外…1階から小十郎らしき男の声が上がり、謙信の手が緩んだので慌てて起き上がると、謙信から遠く離れた位置で座り込む。


「ああ、いいところだったのに」


「謙信さん、私、三成さんのこと好きなの!」


「知ってるよ。でも私のことも好きだよね?」


「っ」


反論できずにただ謙信を見つめていると、襟元を正して座禅を組み、大きく深呼吸をした。


「いつもいつも邪魔が入るねえ、越後までは我慢なのかな。そんなに我慢強い方じゃないんだけどなあ」


「殿!お部屋の前に怪しき気配を感じましたがご無事ですか!」


風呂上がりの面々が帰ってきて、真っ先に桃の顔色を読み取った三成が怜悧な瞳を細めると桃の隣に腰かけた。


「どうした」


「え!?ううん、何でも…」


「そうか。気に病むことがあるならば必ず俺に言え」


皆から見えないように手を繋いでくれた。


優しい手。


謙信の手とは、また違う。
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