優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が風呂へ入りに行き、政宗が散策をしに出たので、幸村が桃の守護をしに出て行った。

三成と謙信のただならぬ雰囲気を読み取った兼続は、監視がてら1階の清野の様子を見に行ったので、


桃が風呂に行くまでずっと謙信を目を合わさずに手を繋いだままだったのが気がかりだった三成は早速酒を口にしている謙信の前に座った。


「で…貴公は何をしたのだ?」


「え?具体的に聞きたいの?聞かない方がいいと思うよ」


言い含んでは苛々を誘い、改めて桃の立場を言い聞かせる。


「正室などにはさせぬ。桃は…帰らねばならぬのだ。わかっているのか?」


「わかってるよ。ただ私にも譲れないものがあると言っておく。私には桃姫が必要なんだ。仏が遣わしたんだよ、私のために」


なかなか本心を語ろうとしない男が、すらすらと話す。

それは酒の勢いでもなく、温厚で穏やかな男の顔にはじめて真剣な光を瞳に宿らせた。


盃を手にはしているが、一瞬たりとも三成の鋭い瞳から視線を逸らさなかった。


「これも戦だと思わないかい?桃姫は戦の褒賞ではないけれど…得ることができるのならば、私は頑張るよ。戦は嫌いだけれど、敗けたことはないんだ」


――宣戦布告をされた。


…どうやら桃は謙信をこの短時間の間に本気にさせてしまったようだ。


けして起こしてはならなかった日和見主義の龍――

国を奪われそうな時のみに重たい腰を上げて牙をむき出してきたが、今回は国ではなく…桃だ。


「…本気なのか」


「それを聞いてどうするの?桃姫は君を好いている。だけど、私のことも好いている。私たちは立場は変わらないんだ、だから私を止めることはできないし、また私も君を止めない」


――謙信が脇に置いている真白き刀――

あれを血に染めることなど厭わないと、そう暗に言う上杉謙信を止める術などない。


…まるで負け犬の気分になり、少なからず気位の高い三成は己を負け犬とはけして認めない。


だが目の前の謙信とはまるで格が違う。


――これ以上己を恥じることを由とせず、三成は腰を上げて、見上げてくる謙信に言い放った。


「俺は負けぬ。上杉謙信、勝負だ」


笑った。
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